アメリカの高校に、「生徒が働ける」カフェがオープンした理由

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誰もが学校を卒業すれば、新たなキャリアへと歩みだす──だが、こんな想いを持っている人も多いのではないだろうか。

「もっと若いときに、社会や労働、自分のキャリアについて勉強をしておけばよかった」と。

調査によれば、自分の将来の適性や社会人としてのマナー、人生におけるリスクへの対応の仕方といった指導を「高校時代にしてほしかった」と振り返る人の割合は高い(※)

世界でも、学校と社会を接続するキャリア教育や職業教育は大きな課題だ。目まぐるしく変わる現代社会に船出する際、若者たちにどんな準備をしてもらえばよいのだろうか。

アメリカはルイジアナ州、ウォーカー・ハイスクールのジェイソン・サンピエール校長もこのように問うた1人だった。ルイジアナ州では高校生の56パーセントが大学に進学する。しかし、残りの44パーセントの若者たちはどうしているのだろうか。彼らのために、高校は何をしてあげているのだろうか、と。これが学校改革のスタートだった。

今、ウォーカー・ハイスクールにはアメリカ南部を中心に展開する、「PJ’s Coffee」というコーヒーフランチャイズの店舗がある。この高校がユニークなのは、ここで生徒たちが「働ける」ということだ。アルバイトとしてではなく、正規の教育プログラムの一環として、生徒たちはPJ’s Coffeeを運営するのだ。マーケティング、在庫管理、カスタマーサービス、広告戦略、もちろんコーヒーをお客に出すところまで、すべて生徒たちに任されているというのである。

PJ's Coffee

Image via PJ’s Coffee

ウォーカー・ハイスクールの校内には、コーヒーショップのほかにもピザショップやスポーツショップ、信用組合の支店などがある。ほかにも、テレビ局や医療機関など多数の業種と提携し、職業訓練プログラムを展開している。

スポーツショップの立ち上げでは、マーケティングの専門家を招いてスタートアップの方法、トレンドの見極め術、マネタイズの仕方などを学んだ。生徒たちは市場調査を行い、在庫を管理し、SNSで発信し、経理も担当する。彼らはアパレル社員のように働くのだ。

信用組合では、プロの従業員とともに、生徒がスタッフとして融資の相談やクレジットカードの発行といった銀行の通常業務を行っている。これらは、住民たちの利便にもかない、職業教育がまちづくりに一役買っている格好だ。

一般に職業教育というと、インターンシップや企業訪問など、生徒たちが「社会へ出向いて学ぶ」場合が多い。ウォーカー・ハイスクールの場合は、まちの機能の一部を生徒たちが担い、「社会のなかで学ぶ」ものといえよう。こうしたなかで生徒たちは自分の興味や関心を広げ、将来に関連するスキルを磨き、人生における様々な選択肢を検討することができるのだ。

現代社会は複雑化しており、従来のような「正解」が通用しないともいわれている。そうしたなか、学校は「1つだけの正解」を教え、それを即答できることをよしとしてはいないだろうか。

今、学校教育の刷新が求められるなか「社会のなかで学ぶ」ウォーカー・ハイスクールのやり方は、教育界に一石を投じるものだといえよう。そんな予感を起こさせる教育のアイデアだ。

国立教育政策研究所 生徒指導・進路指導研究センター編(2016)「再分析から見えるキャリア教育の可能性 -将来のリスク対応や学習意欲,インターンシップ等を例として-」

【参照サイト】Walker High School公式ホームページ
【参照サイト】Walker High School welcomes four businesses to new campus
【参照サイト】Why this coffee chain is opening stores in high schools
【参照サイト】Walker High School to house Nike Apparel store

Edited by Erika Tomiyama

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