ウクライナの文化財を、爆弾の届かないクラウドに。市民がスマホで3Dデータを残せる草の根運動

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武力紛争は、文化財も危険にさらす。ロシアによる軍事侵攻が始まってから約1年が経った2023年2月現在、ウクライナでも同じことが起きている。

2023年1月、国連教育科学文化機関(ユネスコ)が、ウクライナにある236件もの文化財が、軍事侵攻により被害を受けたと発表した(※1)。これには、宗教施設や、博物館、記念碑、図書館などが含まれる。

「文化財が破壊され、ウクライナの人々のアイデンティティが失われることを防ぎたい」そんな想いから始まったのが、文化財の3D画像を残すデジタルアーカイブプロジェクト「Backup Ukraine(バックアップ・ウクライナ)」だ。3D画像は、クラウド上で共有される。


同プロジェクトには、3Dスキャンアプリを提供する米企業のPolycamや、ユネスコなどが関わっている。プロジェクトに参加するボランティアの人々は、特別なトレーニングを受けなくても、自分のスマートフォンで簡単に未来に残すための3D画像を作成できる。

ウクライナ国内にいる人であれば誰でも、オンラインで申し込み、ボランティアになれる仕組みだ。地域の歴史を伝えるものであれば、地元の会議場や室内の光景もデジタルアーカイブの対象となる。バックアップ・ウクライナのサイトには、寝室や犬の3D画像もあり、屋内に隠れて生活する人々の様子が現れている。

バックアップ・ウクライナは、「外出禁止令を守りましょう」「軍人の居場所を、決して明かさないでください」といった留意事項をまとめており、現地の緊張感が伝わってくる。そんななかでも、数多くの3D画像が蓄積されているのは、人々が自国を誇りに思っていることの表れではないだろうか。

多くの文化財が危機にさらされるなか、3Dスキャンという新しい技術が、次世代への記憶の継承に貢献している。

文化財そのものが無事であることを願うが、もし破壊されてもバックアップがあれば、ウクライナの人々の少しの安心感につながりそうだ。

※1 Damaged cultural sites in Ukraine verified by UNESCO
【参照サイト】Backup Ukraine – Polycam + UNESCO
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