“死んだら、木になろう”。アメリカの墓地で始まる「樹木葬」とは?

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人は生きている限り、必ず死ぬ──あなたは、自分の埋葬について考えてみたことはあるだろうか?

日本は、高齢化が進み多くの人が亡くなる「多死社会」であり、都市部の墓地不足は深刻化している。日本だけでなく世界でも、墓地不足や人間の埋葬による環境負荷が指摘されている。

一方で、ライフスタイルや価値観の多様化によって、お墓のあり方も変化してきた。お墓を承継する人がいなくなったり、その管理料が一定期間以上支払われなかったりする無縁墓といった問題も自治体などでは頭を悩ませるところだろう。それでは、どうすれば、より自然で尊厳のある「弔い」のかたちを実現できるのだろうか。

米国に本拠を置く公益法人、「Transcend(トランセンド)」は、亡くなった人々を「木」にする「樹木葬」を2023年春から開始する(ペット版はすでに開始)。人々の眠る墓地を森林に変えて、地球の環境を再生しようというのだ。

 

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仮にあなたが生前、この「樹木葬」サービスを予約したとしよう。まず、亡くなったあなたの体は、自然分解される亜麻布で優しく覆われ、土中の酵素濃度を保つウッドチップの上に安置される。さらに、あなたを自然分解するよう配合した菌、土壌、ウッドチップが周りにかぶせられていく。

そしてその上に、生前に選んでおいた若木が植えられる。木々はあなたやその周りに根を張り、あなたの体に残された養分をもとに成長していく。あなたは文字通り「木」となるのだ。

地下の菌系ネットワークは、あなたの「木」と森全体を繋いでいる。あなたは森として生態系の一部となっている。あなたの友人や家族はあなたの「森」を訪れ、あなたの「木」を見て、あなたを偲ぶことだろう。なかなか壮大な弔いではないだろうか。

トランセンドによれば、「樹木葬」は、火葬よりも576パーセント持続可能な方法で、CO2を100パーセント排出削減できるという。さらに、植樹を行う非営利団体、One Tree Planted の協力のもと、樹木葬1人分の注文ごとに1,000本の木を植樹するという。世界の7人に1人が樹木葬を選べば、1兆2,000億本の木を植える計算になり、気候変動の悪影響を相殺できるとまでいうのだ。

私たちは、普段、死を意識することは少ないだろう。そして「死んでしまえばすべておしまい」とばかりに死後にも配慮していないかもしれない。だが、「樹木葬」は、個人の死が、地球の再生へとつながる壮大なストーリーの一部となりうることを教えてくれている。

メメント・モリという言葉もあるように、死を想えばこそ、死が避けられないからこそ、今できる行動もあるということを改めて考えさせてくれているのではないだろうか。死んだら、「木」になるのも悪くないのかもしれない。

【関連記事】人間を土に還す。シアトルで始まる、世界初の「堆肥葬」
【参照サイト】トランセンド公式ホームページ
【参照サイト】墓地を森として再生 米企業が提案する、死を生に変える持続可能な樹木葬
【参考文献】小谷みどり(2016)「墓の現代的課題」、『ライフデザインレポート』1-10頁。

Edited by Erika Tomiyama

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