【イタリア現地レポ】「Do you speak Design?」持続可能性の観点でまわるミラノデザインウィーク

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世界最大規模のデザインの祭典「ミラノデザインウィーク(Milano Design Week)」が、コロナ後、4年ぶりにイタリア・ミラノで開催された。

ミラノデザインウィークとは、大型展示場・ロー・フィエラミラノ(Fiera Milano, Rho)で開催される世界最大規模の国際家具見本市「ミラノサローネ(Salone del Mobile.Milano)」と、市内のさまざまな場所で開催される「フォーリサローネ(FuoriSalone)」をあわせたもののことをいう。

今回はイタリア在住の筆者が、実際に会場を訪れ、サステナビリティの観点から印象的だった展示をご紹介していく。

新デザインとサステナビリティの両立へ

まずはメインの「ミラノサローネ」から回っていく。各メーカーの膨大な製品群が欧州最大級の広さの24館もある中で、その出展数は2,000社以上。ミラノサローネ社長であるMaria Porro氏は言う。

「コロナ後のサローネを大変嬉しく、興奮して迎えています。コロナ前に戻ったわけではなく、新デザインとサステナビリティの両立の未来に向かうことがテーマです。巨大な会場は効率よく回れるようにレイアウトし、天井照明は最小限にしました」

その言葉通りに、世界的インテリアブランドがひしめくパビリオンでも、サステナビリティはメインテーマとなっていた。各社、いかにして次の時代に繋げようとする工夫が見られた。

照明部門の新エコシステム

サローネの照明部門であるEuroluce(エウロルーチェ)は、前述のサローネ社長の言葉のとおり、来場者の動きが効率的になるよう有機的に各ブースを配置していた。そして、天井照明はほぼゼロ。

各社がデザインとLED照明技術にこだわるなか、業界のトップメーカーであるArtemide(アルテミデ)の新エコシステム「INTEGRALIS」は秀作だ。人間には見えない不要な紫外線を光源から削除し、エネルギーを節約しながら、目に優しい光を実現している。

Artemide

Artemide(アルテミデ)の会場。来場者が効率的に回りやすくなっている。

Artemide(アルテミデ)の新エコシステム「INTEGRALIS」

Artemide(アルテミデ)の新エコシステム「INTEGRALIS」

リサイクル材でつくられた家具の展示

プラスチック家具で世界をリードしてきたKartell(カルテル)は、illy caffè(イリーコーヒー)の出がらしカプセルを混ぜたリサイクル・プラスチック椅子を発表した。

また、家具ブランドLAGO(ラーゴ)は、「Good House」を謳い、サーキュラーエコノミーを念頭に置いて展示ブースを設計。これは完全にリサイクル可能であり、複数年間再利用可能である。無駄をなくし、大幅に軽量化、コンパクト化した構造により、従来の展示ブースより80%以上CO2の排出を減らしているという。

家具メーカーarper(アルペール)は、廃材でつくられた地球型照明の下にリサイクル材の椅子を展示した。

展示

左上が「Good House」、右上がarper(アルペール)。その他、廃材を元につくられたデザインも多数

新人デザイナー登竜門のSaloneSatellite(サローネ・サテリテ)部門では、3Dプリンター家具も

25年前に、Marva Griffin(マルヴァ・グリフィン)氏が創立し、35歳以下のデザイナーに展示スペースとビジネスチャンスを与えるためにキュレーションしている「サローネサテリテ」。世界的に有名なデザインオフィス「Nendo」など、ここから輩出され、現在は有名になってるデザイナーも多い。

今年は、日本のプロダクトデザイナー有志によるデザインラボ「HONOKA」のプロジェクトが一等賞を受賞した。日本の廃畳材を、ExtraBold Inc.の大型3Dプリンターを使用して現代の生活に合わせて畳を織り直した家具である。

HONOKA

フォーリサローネのインテリア製品も

次に「フォーリサローネ(FuoriSalone)」だ。市内のさまざまな場所で開催されるこの展示では、イタリアン・デザインの雄、カッシーナが同社ショールームで多くの歴史的新作に加え、ペットボトルから再生した耐水布でできたアウトドア製品を展示していた。

カッシーナ

再生プラスチック展「RoGUILTLESSPLASTIC」

イタリアの有名なデザインコレクター、ギャラリスト、そしてキュレーターRossana Orlandi氏と娘のNicoletta Orlandi Brugnoni氏が設立し、運営する国際的なプロジェクト「RoGUILTLESSPLASTIC」。このプロジェクトはデザイナーやクリエイティブコミュニティを巻き込み、プラスチックごみや他の種類の廃棄物を新たな命に蘇らせるための無限の可能性を探求したものたちで溢れている。ミラノ大学中庭のインテルニや、トルトナ地区のスーパースタジオもサステナビリティをテーマに開催されていた。

母と娘

Orlandi親子とギャラリー中庭の様子。左の写真のイスは使用済みゴルフボールでできている。

T.ヴェッラーニ氏の抱えてる新生児SIGH(はぁ:英語で「ため息」の意)は海洋プラからできており、欲しくない未来を警告している。

T.Vellani氏の抱えてる新生児SIGH(はぁ)は海洋プラからできており、欲しくない未来を警告している。

家電メーカーは内装のエネルギー効率も考慮

テクノロジー企業であるサムスンは、エネルギー節約を兼ねた実験的プロジェクトを紹介。額にしか見えない冷蔵庫やテレビなど、究極の「家電は全て壁面に内蔵化」と、その存在を感じさせない理想のインテリア化された空間を展示。製品には、リサイクル素材を採用している。

サムソン

サムソンの展示

編集後記

「ミラノサローネというブランドは世界で唯一だが、この業界をリードする見本市の地位強化の為に、まだまだやらなければならないことは多い。デザインはファション、アート、建築と共にミラノを牽引する重要な要素です。よりの一層のデジタル化で、この一週間だけでなく、365日機能するシステムも必要だと考えます」

ミラノサローネでコンサルタントをしている、インターブランド社のイタリア代表L.グリマルディ氏は、そう語る。

デザインの業界は、意匠とステナビリティを両立させながら、ゆっくりだが良い方向に向かっていると感じる。一方で、より広く浸透させるには、サステナビリティだけではなく、クオリティも求められる。「人が欲しいと思うデザイン」と「サステナビリティ」をどう両立させるのか。これは、全産業に共通するテーマでもあるだろう。

筆者プロフィール:天野 忠夫

渡伊後、ミラノの著名建築デザイン事務所2ヵ所を経て、伊の既成概念に囚われない自由な創造性とフランクな人間性に驚く。デザイナー&ジャーナリストとしてStudioTAD主宰。範囲はデザイン全般。作品は欧州&日本のギャラリーで展示。大学やシンクタンクでセミナー、ミラノ工科大学契約教授を経験。ミラノサローネは1987年から今日まで毎年参加、主催者の日本向けPRを約10年担当し、日本企業の出展もサポート。ジャーナリストとしてミラノ外国人記者クラブ正会員で、デザイン、建築、アートを中心に情報を発信している。

【参照サイト】Salone del Mobile.Milano
【参照サイト】Fuorisalone.it

Edited by Erika Tomiyama

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