持続可能な航空燃料は「すでにあるが普及してない」。そのワケを考えた

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世界中で脱炭素が叫ばれる今。特に環境負荷の大きいとされる航空業界では、すでに水素を燃料とするエアバスや、食用油を燃料とする航空機の運行など、さまざまな実証実験が行われている。

では、そういったオルタナティブな選択肢は、なぜ世界的な普及にまでは至っていないないのか。世界経済フォーラムが2023年6月13日に掲載したコラムを見ながら、考えていこう。

(以下、世界経済フォーラムが運営するアジェンダページの「持続可能な航空燃料が、広く普及していない理由」の全文掲載)


1回の長距離フライトで排出される二酸化炭素は、56カ国の平均的な人々が1年間に排出する二酸化炭素の量を数時間で上回ります。航空会社がネット・ゼロの世界に適合することは可能なのでしょうか?

航空会社が排出量を削減する方法のひとつは、燃料の使用を、石油系燃料から持続可能な航空燃料(SAF)と呼ばれる低炭素の代替燃料へと移行することです。

世界の炭素排出量約2.5%は航空が占めています。

世界の炭素排出量約2.5%は航空が占めています。 Image: Image: Our World in Data

イギリス政府は最近、2030年までに航空機燃料の少なくとも10%を持続可能な原料で作るという規則を導入し、SAFの生産と利用を促進したいとしています

しかし、持続可能な航空燃料には一体何が使われているのでしょうか。そして、なぜ広く普及していないのでしょうか。

持続可能な航空燃料とは?

国際航空運送協会(IATA)に加盟する航空会社は、2050年までに飛行機の運航による炭素排出量をネットゼロにすることを公約しています。SAFは、その排出量を65%削減することができると言われています。

その理由は、SAFはバイオ燃料の一種であり、化石燃料ではなく、植物や動物由来の燃料であるためです。BP社は、食用油と動物の廃脂肪を使ってSAFを製造しています。他にも、農林業廃棄物や都市ゴミを利用する方法もあります。

持続可能な航空燃料を作ることができる原料。

持続可能な航空燃料を作ることができる原料。 Image: Image: CORSIA

現在の規則では、SAFの混合比率は最大50%ですが、2030年までに航空会社がSAFを100%使用できるようにすることが期待されています。

SAFが従来のジェット燃料の「ドロップイン」代替品として使用できるようにすることが、航空業界にとって重要になるでしょう。そうすれば、航空機のエンジンを改良することなくSAFを使用することできるのです。

SAFによる排出量削減

しかし、SAFはそれ以上の効果を発揮し、従来のジェット燃料と比較して最大80%の削減を達成することができるとの研究結果もあります。

さらに、次世代の持続可能な航空燃料は、85〜95%の二酸化炭素の削減を実現できる可能性があります。この燃料は、藻類、農作物の残渣、動物の排泄物、林業残渣などのバイオマスと、製品のパッケージや食べ残しなどの日常的なゴミから作られます。

バイオマス原料のSAFを使えば、カーボンニュートラルに近づくことができるかもしれません。

バイオマス原料のSAFを使えば、カーボンニュートラルに近づくことができるかもしれません。 Image: Image: IATA

IATAによると、バイオマスを原料とするSAFの場合、これらの植物が成長段階で吸収する二酸化炭素は、燃料として使われる際に発生する量とほぼ同等だといいます。このことからカーボンニュートラルなSAFとなり得るのですが、原料の輸送や燃料の精製時にはエネルギーが必要となるため、SAFの製造過程で排出物が発生します。

なぜSAFは普及していないのか

現在使用されているバイオベースの燃料は、航空燃料の総消費量のわずか0.1%です。なぜあまり普及していないのでしょうか?

欧州議会は、新しい技術や製造方法に関連するコストが高いことなどが障害になっていると述べています。ユナイテッド航空のCEOであるスコット・カービー氏は、「従来のジェット燃料とコスト競争力のある持続可能な航空燃料はまだ存在しない」と、フィナンシャル・タイムズ紙に語っています

業界の試算によると、ヨーロッパの航空業界は、クリーン燃料の使用への移行のために、4,850億ドル以上の支払いに直面しています。

さらに、欧州議会は、廃棄物由来の原料の不足もハードルの一つであるとしています。こうした課題を乗り越えるためには、より幅広い種類の原料が必要であると、非営利団体の環境・エネルギー研究所(EESI)は述べています。

SAFの生産と利用を拡大するためには、より幅広い原料が必要です。

SAFの生産と利用を拡大するためには、より幅広い原料が必要です。 Image: Image: EESI

SAFのもう一つの課題は、従来のジェット燃料に比べてエネルギー密度が低いということ。1リットルのジェット燃料とSAFを比較すると、ジェット燃料の方がよりも多くのエネルギーを含んでいるため、同じ量のSAFを使うよりもジェット燃料を使った方が飛行機をより遠くまで飛ばすことができるのです。

つまり、飛行機が長距離を飛行するためには、大量のSAFを搭載する必要があり、実用的でなくなる可能性があります。

SAFの使用を推進するためには、政府が、生産規模を拡大し、コストを下げるための政策を立案する必要があると、欧州議会は述べています。また、BP社は、長期的な政策に確実性を持たせることで、企業の投資リスクを軽減し、生産技術や革新的な原料の研究・開発・商業化を促進することができると話します

世界経済フォーラムの、クリーン・スカイズ・トゥモロー・コアリションは、航空業界のリーダーや政府の閣僚を集め、SAFをより経済的に実行可能なものにするための介入策や枠組みの開発を支援しています。

著者:Ian Shine(Senior Writer, Forum Agenda)
※ この記事は著者の意見を反映したものであり、世界経済フォーラムの主張によるものではありません。

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