「牛の糞」からつくる家具、インドネシアで誕生

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疲れてもう少し寝ていたい日。布団のなかでまどろんでいるとき、その平和な時間を妨害され、否応なく起こされたとしたら──?

考えるだけでも気が滅入ってしまうような朝を幾度となく迎えているのが、インドネシアのレンバンに住むアディ・ヌグラハ氏だ。酪農をしている村の近くに住んでいる彼は、毎日牛の鳴き声と糞尿の臭いで目を覚ましていたという。

悪臭の問題に加え、ヌグラハ氏が問題視していたのが、牛の排泄物による環境汚染だ。彼の住む地域では廃棄物処理のシステムやインフラがないために、牛糞が川や土壌の汚染の原因になっていたのである。

研究者であり、プロダクトデザイナーの彼は、悪臭や環境汚染の問題をどうにか解決できないかと考えた。そして思いついたのが、問題そのものであった牛糞を使ってスツールやランプ、収納ボックスといった家具をつくることである。

牛糞からできたホームプロダクト

プロダクトをつくる工程は、こうだ。まず、農場から集めた牛糞をふるいにかけて水できれいにする。その残渣を機械で乾燥させ、粉末状に変え、それを接着剤と混ぜて圧縮。型に入れて成型し、7~10時間乾燥させた後、サンドペーパーで表面を滑らかにし、コーティングで耐候性を高めて完成だ。

プロダクトは、念入りに洗浄しているため、衛生的で安全。また、悪臭がすることもない。素材をつくる途中段階で、コーヒーかすやタバコの吸い殻といった廃棄物を混ぜ込み、素材そのものの匂いを消す工夫を施しているのだそうだ。

このプロトタイプは、ジャカルタで開かれた「インドネシア 現代アート&デザイン(ICAD)」と、シンガポールで開かれた「EMERGE@FIND デザインフェア・アジア」で制作・展示され、ヌグラハ氏のもとには海外からのオファーも多く届いたという。しかし彼はIndonesia Designに対し「海外市場にも興味はあるものの、海外のバイヤーを積極的に探しているわけではありません」と語る。彼の目標は、身近な廃棄物の問題を解決しながら、周りの農家にも経済的な利益をもたらすこと。そのために、まず国内市場に浸透させる考えなのだそうだ。

様々な問題の根源であった牛糞は、ヌグラハ氏の力で、人々の生活に彩りを加える存在となった。邪魔者を「素材」として捉える──そんなふうに物事の見方を変えることが、困難を問題解決の糸口にするための秘訣なのかもしれない。

【参照サイト】Adhi Nugraha Design
【参照サイト】Adhi Nugraha’s Cow Dung Products: From Waste to Grace(iD)
【参照サイト】Indonesian Designer Adhi Nugraha Makes Home Accessories From Cow Dung(HOME&DECOR)

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