ヨーロッパ初、アイルランドの全企業に導入された「DV有休」

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女性4人のうち1人。これは、世界保健機関(WHO)を中心とした研究チームが2022年に発表した、DVを経験したと推計される女性の数だ。同推計では、日本では女性の5人に1人が生涯のうちDVを経験したことがあると推計されている。

DVの被害者は必ずしも女性とは限らない。しかし男女共同参画局は令和2年に検挙した配偶者間における暴力の被害者の88.9パーセントは女性であったと報告している。やはり身体的にも社会的にも弱い立場に置かれている女性が被害を受けるケースが大半のようだ。

被害に遭う女性たちの多くは、十分な稼ぎがない・家を出たら行く場所がない、といった理由でDVから逃れられない。そのため、身体的、精神的なサポートのほか、DVから逃れ新たな生活を始めるための経済的サポートが非常に重要だ。

DV被害者に対し経済的なサポートを行う事例として取り上げたいのが、アイルランドが今秋から導入すると決定した新法である。これは、国内全ての企業へ従業員に年間5日間の”DV有給休暇”を付与することを要請する法律だ。申請者はこの休暇期間、文字通り通常の有給と同じように給料の全額を受けとることができる。これは欧州では初となる施策だ。

特に着目したいのが、この休暇を取得するにあたり、被害者はDVの証拠提出を行う必要がないという点だ。これを見た際筆者の頭に浮かんだのは、事実確認のため警察に何度も被害時の状況を説明や再現しなければならなかったという性被害者の事例だ。この性被害者は、これによりさらなる精神的苦痛を受けたという。DVに関しても全く同じことが言えるのではないだろうか。

多くの場合、DVの被害者は心身共にダメージを受け、疲れている。そんななか休暇取得のための面倒な手続きがあれば、制度を使う際の大きなハードルになることは容易に想像できる。最悪の場合休暇の取得を諦めてしまう人も出てくるかもしれない。実際、政策の導入を決定した子ども・平等・障害・統合・青少年省大臣のロデリック・オゴーマン氏はこれについて「有給休暇をできるだけ簡単に取得できるようにするための意図的な決定である」RTEニュースに対し語っている。

また、雇用主が本休暇に同意しない場合、従業員は職場関係委員会に連絡し、その権利を主張することができる。本法律は2年後に見直し、延長の検討が行われるとのことだ。

世界の他の地域を見てみると、例えばニュージーランドでは年間10日、アメリカの一部の州でも年間数日のDV有給の付与が企業に義務付けられている。このように、少しずつではあるが、国が企業に働きかけ、企業がDV被害者となった従業員へのサポートを整えていく動きが広がってきている。

たった5日の有給休暇、と感じるかもしれない。しかし、先にも述べた通り欧州初となるこの施策は、少なくとも地理的に近しい欧州の国々には大きな影響を与えるのではないだろうか。少しでも多くのサポートがあることで、DV被害者が新たな一歩を踏み出しやすい社会を作っていけると良い。

【参照サイト】Fully paid domestic violence leave to start in autumn
【参照サイト】Five days domestic violence leave on full pay available from autumn, minister says
【参照サイト】Violence against women
【参照サイト】第1節 配偶者等からの暴力の実態(男女共同参画局)
【参照サイト】「日本のDV対策の現状 ここがおかしい。」
【参照サイト】Domestic Violence Leave Laws by State
【参照サイト】Family violence leave
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