「あなたは一人じゃない」山梨県が設置した、“今つらい人“のためのトイレットペーパー

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「じぶんのことが大嫌いだという、あなた 
つらい毎日を、誰かのために平気な顔をして過ごしている、あなた
じぶんは弱いからから、もう終わりにしたいという、あなた
がんばったね そのきもち、全部じゃなくていいから
うまく話せなくてもいいから ほんの少し言葉にしてみませんか?」

引用:やまなし in depth

この言葉は、2022年、山梨県が若者の自殺を防ぐ目的でつくったトイレットペーパーに印字された言葉だ。

行き場のない辛さを抱えているとき。本当の意味で頼れる人がいないと感じたとき。誰かに、こんな言葉をかけてもらえたら──たとえ抱えている辛さを根本的に解消することはできなくても、心が少し軽くなるのではないだろうか。

Image via やまなし in depth

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厚生労働省の調査によると、このトイレットペーパーが作られた2022年の全国の自殺者数は、2021年より297人増加し、2万1,881人だった。都道府県別の自殺死亡率をみると、山梨県が全国ワースト1位となり、なかでも近年、若者の自殺者数が増加しているという。

その大きな原因のひとつとして考えられるのは、2019年から始まった新型コロナウイルスの拡大だろう。実際、筆者自身もコロナ禍では人との接触が制限され、必然的に一人の時間が増えると、先の見えない不安な感情が押し寄せてきた。

「この先、生きていても希望がない」──孤独は時に、そんなネガティブな感情を引き出してしまう。しかし、ほんの少しの支えがその気持ちに歯止めをかける。

このトイレットペーパーは、「なんとか命を絶つことを思い留まってほしい」、「助けを呼んでほしい」という想いで、山梨県庁の健康増進課と自殺防止センターが共同で開発した。

トイレでは一人になることで、辛いことや悩みを思い出してしまう場所になりやすいという観点に着目し、トイレットペーパーに印字することを考えたという。

メッセージの最後には、相談窓口の電話番号が添えられ、山梨県内の12の大学に6,000ロールが配布された。

トイレットペーパー設置後、県外の自治体からも問い合わせが相次いだという。死んでしまいたいほどの悩みを抱えている人がどこにいるのか、なにをすればその想いを止められるのか、明確な答えがないぶん、この施策が直接的な自殺防止につながっているかを判断するのは難しい。

それでも歩みを止めず、救える方法を探しながら、まずは一人ひとりが自分の問題として捉えられる社会にすることが大事なのではないだろうか。トイレットペーパーは誰もが使うもの。たとえ悩みを抱えていなかったとしても、メッセージを読めば、身近な人の気持ちに思いを巡らせたり、声をかけるきっかけをつくれたはずだ。

あなたの「大丈夫?」「ちょっと話そうよ」そんな何気ない言葉が、誰かを救うことにつながっている。「一人じゃない」と思える社会は、一人ひとりの意識によって実現できるかもしれない。

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Edited by Erika Tomiyama

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