綺麗?汚い?オランダ発「尿からできた石鹸」

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「尿」と聞いて、何をイメージするだろうか。汚い?不潔?不快?また、「石鹸」はどんなイメージだろうか。キレイ?清潔?いい香り?では、この相対する2つのものを一緒にした「尿石鹸」は、汚いのだろうか、キレイなのだろうか。

そんな議論を巻き起こしそうな「Piss Soap(ピス・ソープ、尿石鹸)」が、オランダで注目を集め始めている。

デザインしたのは、アーティスト兼サーキュラーデザイナーのArthur Guilleminot(アーサー・ギレミノ)。彼は、人々から尿を寄付してもらい、その代わりに、尿から作った石鹸を配っている。

Photo by Jeph Francissen

Photo by Jeph Francissen

石鹸の原料は、使用済み食用油、木灰、オレンジの皮、それと人間の尿だ。5年を超える研究をおこない、これらから石鹸を作り出す方法にたどり着いた。尿に苛性ソーダを加えて殺菌をすることで、衛生的にも問題がなくなるという。

しかし、彼はそれで特許を取るわけでもなく、この石鹸のレシピをYouTubeで全世界に向けて共有している。動画は誰でも閲覧可能だ。2023年には、商品化の話がありながらもそれを断り、アムステルダムで活動するための公的資金を得て、Piss Soapの安全な作り方を教えるワークショップを多数開催した。

彼を突き動かす原動力は何だろうか。それは、利益を上げることではなく、活動を広げ、人々のリサイクルに対する考え方を変えることだという。

IDEAS FOR GOODの取材の中で、彼はこのように語った。「私たちが、自身の消費者としての罪悪感を洗い流す方法として、『あれもこれも買っているけど、リサイクルしているから大丈夫』という考え方があります。私たちはごみ箱にものを入れるだけで、その後マジックが起こると思っている。でも、これでは分別をした自分とリサイクルに出されたもののその後がつながらない。Piss Soapがしていることは、自分が持っている不要なものを集めて、誰かにあげる。そして、そのお返しとして石鹸をもらう交換です。これは今までとは異なるリサイクル方法なのです」

Piss Soapは、日常生活の中で何も考えずに捨てられてしまう廃棄物から作ることができる。製造にはエネルギーや家庭用電化製品がほとんど必要ないため、個人の家で作れるのもポイントだ。つまり、誰もが廃棄物や排泄物からモノを作り出す生産者になれるのだ。

Photo by Jeph Francissen

Photo by Jeph Francissen

ごみを使って何ができるか、自ら考える。Piss Soapを通して、社会にそのような投げかけをするため、アーサーさんは人々との交流やモノの交換に注力している。

彼の活動に影響を受け、ユトレヒトやロッテルダムなどオランダの他の都市でもこの石鹸を作り始めた人が出てきたそうだ。Piss Soapの活動は地元からじわじわと広がり、やがて世界的な動きになるかもしれない。

では、改めて冒頭の問いについて考えたい。Piss Soapは汚いのだろうか、キレイなのだろうか。二元論では割り切れないこの問いを考える上でのヒントとして、Piss Soapのホームページで引用されている言葉を紹介する。

「汚れとは、場違いな物質でしかない」
-Mary Douglas(メアリー・ダグラス)

尿と石鹸という一見相反する2つを組み合わせることで、Piss Soapは、廃棄物を価値あるものへと再定義し、私たちの生活の「常識」を改めて問い直してくれる。

▼現地の取材動画 (IDEAS FOR GOOD YouTubeチャンネル登録はこちらから)

【参照サイト】Piss Soap
【参照サイト】Piss Soap YouTube
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Edited by Megumi

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