いびつな形、だから良い。節約志向で広がる「ウォンキー・ショッピング」

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“wonky”という言葉をご存じだろうか。英語で、「不安定な」「ぐらぐらする」「曲がった」といった意味を持つ形容詞だ。どちらかというとネガティブな意味を持つ言葉のように見える。だが、昨今この言葉が「完璧でない商品を販売・購入する習慣」を表すキーワードとして、イギリスの小売業者や生活者の間で広がっているという。

この“wonky”にあたるものとしてイギリスで最初に位置づけられたのは、形や大きさが不揃いだったり、少し痛んでいたりする、いわゆる規格外の野菜や果物だったという。これらは味も栄養価も市場に流通するものとほとんど変わらないが、市場が定めた規格に合わないという理由で大量に廃棄されており、長年食品ロスの一部として課題となってきた。

この課題に対処するため、8年ほど前からASDAやMorrisons、TESCOといったイギリスの大手スーパーチェーンが始めたのが、この規格外野菜や果物を、通常よりも安い値をつけて販売する取り組みだ。

例えばASDAは、数種類の規格外生鮮食品を箱に詰めて3.5ポンドで販売する「Wonky Veg」を2015年に開始。同年Morrisonsも規格外野菜の販売を試験的に導入し、2024年現在も「naturally wonky」と謳うパッケージで販売している。TESCOもこれに続き、規格外野菜やフルーツをパッケージにして販売する「Perfectly Imperfect」を2016年に開始した。

こうした流れを受けて、“wonky”という言葉は「傷ついているが、それを除けば問題なく消費できる商品」の同義語になっていった。現在、このトレンドは生鮮食品以外にも広がっているという。例えば、パッケージの箱が傷ついていたり少し凹んでいたりする商品や、賞味期限の近い食品。こうした商品を“wonky”というキーワードをつけて販売するプラットフォームやブランドが増えてきている。いくつか紹介しよう。

例えば、Wonky Coffeeは、傷ついたり凹んだりしたエスプレッソカプセルや余剰のコーヒー豆などをコーヒーメーカーから買い取り、それらをカラフルなオリジナルパッケージに入れてオンラインで販売するブランドだ。これらはコーヒーそのものの品質に問題はないにもかかわらず、大量に廃棄されていた。Wonky Coffeeは、こうした廃棄をなくすために立ち上がり、高品質なコーヒーを通常よりも低価格で提供しているのだ。それらが通常よりも低価格で楽しめることが、顧客にとって嬉しい点だ。

wonky coffee ウェブサイト

ロンドンのリサイクルラッピングペーパーブランドCurlicueは、配送の過程で破れてしまったり既定の長さに少しだけ満たなかったりする自社のラッピングペーパーを集めた「Wonky Wrap box」を販売している。これらも、通常価格と比べると60%ほど安く、顧客に経済的なオプションを提供することで廃棄を減らそうとする取り組みだ。

環境に配慮した成分で子ども向けのシャボン玉キットを販売するDr Zigsも、配送の過程でパッケージが傷ついたりペンキがついてしまったりしたことで返送された自社商品を「Wonky Bubble Toys」と名づけ、正規価格の半額で販売。同社には、この取り組みを開始してまもなく、これまで価格を理由に同社のシャボン玉キットを買えずにいた人たちから、喜びのメッセージが届いたという。

シャボン玉キット

こうしたトレンドの広がりの理由として、昨今のイギリスでの物価上昇が挙げられる。

この数年、イギリスではエネルギー価格や食料価格が急激に高騰し、経済的に困窮している人も多い。そこで、見た目やパッケージは完璧でないが中身には問題のない商品を少しでも安く買うことが、より一般的になっているのだという。実際に、2023年11月にYouGovがイギリスで実施した調査によると、同国の成人の77%が「wonkyな生鮮食品を買いたい」と回答しているが、うち72%はその一番の理由として「価格」と回答している。(※)

値段を理由に“wonky”な商品を買うと聞くと、後ろ向きな印象を受けるかもしれない。しかし、きっかけはなんであれ、「買うなら完璧なものを」という意識が人々の間で薄れていくことで、不完全さも受け入れられる、許容範囲の広い社会になっていくのであればそれも良いのではないだろうか。

また、wonkyという言葉は辞書的にはネガティブな意味を持つように見えるが、例えばニュージーランドの作家による「The Wonky Donkey」という絵本ではよろよろと歩く愛嬌のあるロバが描かれているなど、ちょっとへんてこで、でもどこか愛らしいといったようなニュアンスを含んでいるように感じる。「欠陥品」「ワケあり」といった表現も悪くないが、より不完全さも愛でられるような言葉で表現することで、私たちの社会からこぼれ落ちてしまうモノを減らしていけるかもしれない。

Majority of UK shoppers now likely to buy imperfect fruit and veg during their grocery shop

【参照サイト】Shopping ‘Wonky’ Keeps Imperfect Goods From Going to Waste
【参照サイト】How ‘ugly’ fruit and vegetables could tackle food waste and solve supermarket supply shortages
【参照サイト】Love Health, Hate Waste
【参照サイト】Perfectly Imperfect initiative saves 50m packs of fruit and veg at risk of going to waste
【参照サイト】Sainsbury’s rolls out £2 ‘Taste Me, Don’t Waste Me’ fruit and veg boxes to help reduce food waste
【参照サイト】Asda’s ‘Wonky Veg’ Campaign Aims to Show Ugly Produce Is ‘Beautiful on the Inside’
【関連記事】Amazonが初の「中古品限定ショップ」をロンドンにオープン。実際の店舗の様子は?

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