植民地主義を“衣服”で問う。ウガンダ発ブランド「IGC FASHION」

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2023年冬。ロンドン・ファッションウィークで各国の名だたるブランドが新しいコレクションを発表するなか、異彩を放つブランドがあった。その名も、「IGC FASHION」。東アフリカの国・ウガンダ発のファッションブランドだ。今、このブランドが世界の注目を集めている。


同ブランドは、2024年夏に開催されるパリオリンピックにて、新しく競技に加わるブレイクダンスのウガンダ代表選手のユニフォームを製作するなど、活躍の幅を広げている。

モダンでインパクトのあるIGC FASHIONのデザインは、多くのアフリカ発ブランドとは一線を画す。だが、同ブランドの作品が注目される理由は、デザインだけではない。

「植民地主義者の物語に疑問を投げかけ、失われた価値を取り戻す」

これは、IGC FASHIONが発信するメッセージの一部だ。彼らは、ウガンダで植民地時代以前に使われていた独特な素材を使うことで、母国やアフリカ、そして世界に向けて、こうした社会的メッセージを発信し続けている。

IGC FASHIONがこうしたメッセージをその作品に込めるのは、なぜなのか。彼らが取り戻そうとしている価値とは、どのようなものなのか。今回は、IGC FASHIONの共同創設者であるKatende Godfrey(カテンデ・ゴッドフレイ)氏をインタビューした。同国のファッション事情にも触れながら、その秘密を探っていきたい。

話者プロフィール:Katende Godfrey(カテンデ・ゴッドフレイ)

ウガンダ出身で、IGC Fashionの共同創設者。アフリカの生地を使ったアップサイクルの洋服を製作するファッションデザイナーであり、ウガンダ最大のファッションショー「MADS FASHION EXPO AWARD」でウガンダの最もクリエイティブなファッションデザイナーとして表彰される。ファッションレボリューションウガンダチームの代表も務める。

ストリートからはじまり、一流デザイナーへ

ゴッドフレイ氏がファッションの世界に飛び込んだのは、2016年のことだった。高校卒業後、彼は家族を経済的に支える道を模索する。そんななか、ストリートで洋服を仕立てるテーラーを見て、ファッションに興味を持ち始める。しかし、洋服を作るにはミシンや布の購入といった初期投資が必要だった。そこで最初の2年間は、ストリートで洋服を仕立てるテーラーの女性たちに毎回少しずつお金を払ってミシンを使わせてもらうところから始めたという。

ストリートで少しずつスキルを得ながら、国内の多様なファッションデザイナーとも出会うようになる。彼らからは、デザインやクリエイティビティ、また現在のIGC FASHIONの基礎となっている、古着や資源のアップサイクル方法なども学んでいった。そこから、ウガンダ最大のマーケットである「オウィノマーケット」で古着を購入してはリメイクを重ね、徐々に自分のスタイルを確立していった。

ファッションにとどまらず、身の回りの歴史や文化などから刺激を受けてきたのも、ゴッドフレイ氏の特徴だ。例えば、アフリカの歴史や民族衣装。また建築からインスピレーションを得ることも多いという。

「左右対称でなくても美しい建築があるように、建築物の形や線のバランスを、ファッションでも活かせることがあるのです」

GUGUMUKA COLLECTIONの作品

Image via IGC FASHION GUGUMUKA COLLECTION

アフリカ文化の価値を伝える、“使者”としての作品

ストリートでテーラーから学び、さまざまな文化を取り入れながら一流デザイナーへと成長したゴッドフレイ氏。「ウガンダでは、ファッションに限らず、アートの世界でも文化や歴史がよく表現されている」と話す。確かに、政治の話がタブーとされ、音楽やアートを通した政治的な表現が禁止されている近隣の国々もある中、ウガンダは比較的「表現がしやすい国」であると筆者も生活をする中で感じる。

一方で、現代のウガンダには、西欧やアジアの先進国から、ファストファッションをはじめとした大量の古着が流れ込んでくる。そのため、従来のようにテーラーに洋服を仕立ててもらう機会は減り、人々が身に纏う洋服は均一化してしまった。ソーシャルメディアの影響も相まって海外から輸入されたファッションがトレンド化し、「ファッション業界は“コピーアンドペースト”を繰り返すようになっている」とゴットフレイ氏は話す。

IGC FASHIONは、そのような現状に疑問を投げかけ、作品を通してウガンダやアフリカ特有の文化やアイデンティティを人々に思い起こさせようとする。

例えば、彼の代表作である「GUGUMUKA COLLECTION」。ウガンダがイギリスの植民地となる以前のブガンダ王国だったときに王族が使っていた樹皮布と貝殻を用いた、印象的な作品だ。

GUGUMUKA COLLECTIONの作品

Image via IGC FASHION GUGUMUKA COLLECTION

ブガンダ王国では、この樹皮布は価値が高いものとみなされており、物々交換する際に貨幣としても使われていた。しかし植民地時代に入り、英国はコットン市場を拡大するため樹皮布の使用を禁じ、樹皮布を使用する者は拷問すら受けるようになった。

そうした歴史から、ウガンダでは今でも樹皮布に悪い印象を持っている人たちがいるという。ゴッドフレイ氏は、「これは植民地主義によって失われた歴史と文化であり、ウガンダ人はこれらに対して誤解しているのです」と話す。また、貝殻も植民地以前は樹皮布と同様に貨幣として使われ、伝統的な儀式で生贄として捧げられることもあった。

作品に使用されている樹皮布と貝殻

Image via IGC FASHION 作品に使用されている樹皮布と貝殻

作品のタイトルとなっている「GUGUMUKA」という言葉は、ルガンダ語で「wake up(目を覚ませ)」という意味を持つ。

IGC FASHIONは、このようなウガンダの伝統を思い出させる素材や技法を使い、人々が忘れかけているアイデンティティや誇りを呼び覚ますことに挑戦している。作品そのものが、アフリカ文化の価値を世界に伝える“使者”としての役割を果たしているのだ。

ファッションを通して、貧しい人々を勇気づける

アフリカ文化の価値を、ファッションを通して訴える。これは、ゴッドフレイ氏の「自分たちがどこから来たのかを思い出させ、それを再教育したい」という想いからきているという。その想いの実践は、作品づくりだけにとどまらない。

IGC FASHIONは、2013年の「ラナプラザの悲劇」をきっかけに立ち上がった、ファッション業界の変革を求めるグローバルムーブメント「ファッションレボリューション」の東アフリカチームの代表も努め、ウガンダやアフリカ諸国でファッションを通して人々をエンパワメントする活動を行なっている。

例えばウガンダ国内では、ゴッドフレイ氏が頻繁に地方やスラム街に赴き、ごみ拾いで生計を立てるストリートチルドレンやシングルマザーに向けて無料で裁縫を教えたり、テーラーの人たちが必要とする材料を寄付したりしている。

また、プロジェクト地のひとつであるウガンダ西部の町・Kasese(カセセ)では、現地のNGOと協働してシングルマザーのテーラーに向けて貝殻を使ったアクセサリーづくりなどを教えている。発展の遅れから多くの人々が極度の貧困に陥いるこの町で、ファッションを通じて生活を向上させることができることを伝えているのだ。

ワークショップで生徒に説明をするゴッドフレイ氏

Image via IGC FASHION Kasese(カセセ)でのワークショップの様子

「私はファッションの専門学校には行きませんでしたが、ストリートのテーラーや先輩のファッションデザイナーがさまざまなことを教えてくれたおかげで、ここまでやってこられました。そうしたネットワークが自分の夢を叶えてくれたからこそ、貧しい人々や子どもたちにも、自分の生まれ育った環境を理由に夢を諦めて欲しくないのです」

貧しい人々の状況は、ゴッドフレイ氏自身のバックグラウンドと重なる。だからこそ、彼には機会均等でない環境がよく理解できるという。これが、彼が精力的に現地のコミュニティに貢献する原動力になっているのだ。

ワークショップで作った作品を見せる生徒

Image via IGC FASHION Kasese(カセセ)のワークショップで作った作品を見せる生徒

最後に、ゴッドフレイ氏に今後の夢を聞いた。

「IGC FASHIONが、世界をリードするブランドであり続けて欲しいと思っています。私自身は、服飾学校を立ち上げて歴史と現代ファッションを教え、これからのファッションデザイナーにとってのメンターとなることが夢です」

編集後記

近代化によって、土着の伝統や歴史が忘れ去られつつある現代のアフリカ。記事中でも書いた通り、多くのファッションブランドも例外ではなく、欧米諸国から入ってきたトレンドに飲み込まれているのが現状だ。

そんななか、IGC FASHIONは自国の「過去」からインスピレーションを得る。それは必然的に自国の文化の豊かさに触れる機会を作り、人々のアイデンティティ形成にもつながることを今回の取材で教えられた。そしてそのアイデンティティこそが、自分たちの手で自分たちの「未来」を作る力の源になっていくのではないだろうか。

IGC FASHIONから、たくさんの力強いメッセージを受け取った取材だった。

【参照サイト】IGC FASHION
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Edited by Motomi Souma

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