これが、車に支配された都市だ。まちの主役は誰か?を問う“未来予想図”

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都市開発は、誰のために行われるのだろうか。

都市の姿は常に変わり続け、いつもどこかで工事が進んでいるように感じる。その度に、歩行者は工事現場を避けなくてはならず、細く足元の悪い道を通ることも多い。終わりの見えない開発は、一体誰のどんな生活を実現するために行われているのだろう。

そんな疑問を、強烈に投げかけている作品がある。イギリスのデザイナー、カイル・ブランチズ氏が手がけた「The Motorist Won(自動車運転者が勝った)」だ。

ストーンヘンジやバッキンガム宮殿、ビッグ・ベンなどのイギリスの数々の名所が「車」によって支配された様子が、画像生成AIを用いてまるで現実世界に起きたように描かれている。カイル氏は、scalefulnesというシリーズの一つとして本作品を制作し、自動車を持つことで公衆衛生や環境が犠牲になっていることへの議論を映し出しているという。まちの空間が道路に占拠されて歩行者が端に追いやられ、数えきれないほどの車が並ぶ様子は、どこか不気味だ。

カイル氏は、社会が歩行者にとって過ごしにくい設計になっていることを指摘し、designboomの取材に対しこのように答えている。

イギリス在住の私は、他の多くの先進国と比較して自国の自動車依存度の高さにショックを受けています。 (中略)イギリスの多くの都市では、歩行者インフラが驚くほど整っていません。交差点の数が少なすぎたり、配置が不便であったり、時代遅れの「車優先」の高速道路法規のせいで信号待ちが長引いたりします。 歩行者や自転車利用者の生活の質を向上させようとするあらゆる取り組みは、権力によって押しつぶされることが多くあるのです。

この作品に対し、同国のリシ・スナク首相は「自動車運転者に対する戦いを完全に止めるために、私はさらに取り組みを進めていきます」と、コメントを寄せている。政治の世界にも、カイル氏の叫びは少なからず届いているようだ。

日本では、各車種を合計した自動車保有台数はほぼ毎年のように増加し、2022年には約8,217万台もの車が保有されている(※)。こんなにもたくさんの車が存在することは、それだけ多くの駐車場や車道を整備する必要があるということだ。つまり「車のため」の公共空間が多く、公共交通機関が利用しにくいがゆえに車に依存せざるを得ない人も多いだろう。

「The Motorist Won」が描いたのは、私たちがこのまま何も意識することなく権力や目先の利益に流されていった先に待つ未来だった。ただし、それは必然的な未来ではない。ウォーカブルシティや、パリ市による「自転車で15分の街」など、自動車中心ではないまちづくりの事例は少しずつ政策にも顔を出し始めている。

では、「The Pedestrian Won(歩行者が勝った)」を制作したら、どんな世界が描かれるだろうか。作りたい未来への一歩は、想像してみることから始まるはずだ。

自動車保有台数の推移|一般社団法人自動車検査登録情報協会

【参照サイト】what if cities were built for cars? in kyle branchesi’s ‘the motorist won’, wider roads take over
【参照サイト】scalefulness
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