国連で注目される「都市インフラ×ジェンダー平等」ヨーロッパ各国の様子は?【欧州通信#13】

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今までヨーロッパは行政およびビジネスの分野で「サステナビリティ」「サーキュラーエコノミー」の実践を目指し、さまざまなユニークな取り組みを生み出してきた。「ハーチ欧州」はそんな欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、日本で暮らす皆さんとともにこれからのサステナビリティの可能性について模索することを目的として活動する。

ハーチ欧州メンバーによる「欧州通信」では、メンバーが欧州の食やファッション、まちづくりなどのさまざまなテーマについてサステナビリティの視点からお届け。現地で話題になっているトピックや、住んでいるからこそわかる現地のリアルを発信していく。

前回は、「エコ・ラベル」をテーマに、ヨーロッパでどのようなラベルが見られるかを紹介した。今回の欧州通信では、最近国連機関などでも注目されている、「都市インフラにおけるジェンダー平等」について、イギリス・スウェーデン・オーストリア・フランスで見られる工夫やプロジェクトを紹介する。

【スウェーデン】ジェンダーギャップを埋めるストックホルムの新たな除雪ルール

雪が積もった日や路面が凍った日、車道よりも歩道のほうが事故が起きやすく、けがをする人は女性の割合が高いそうだ。これは男性に比べて、女性は徒歩や自転車、公共交通機関で移動することが多いからだという。

しかし、除雪作業は車道や男性社員が多い大企業の周囲が優先され、歩道やバス停は後回しにされていたため、女性は男性に比べてより危険かつ不便な思いをしていることが明らかになった。

このギャップを埋めるべく、ストックホルムでは除雪の順番が新たに設定された。はじめに除雪されるのは、保護者が出勤前に行くであろう幼稚園のまわり。次に、大企業の周囲が除雪され、この段階には病院や行政機関など女性が多く働く職場も含まれている。続いて歩道や自転車のレーンが除雪されたあと、最後にやっと主要な道路にて除雪がおこなわれる。

この工夫により、政府はコストをかけることなくジェンダー平等に取り組むことができた。それだけでなく、常に歩道を利用する子どもたちにとっても、より安全に通学できる環境を整えることにつながったという。

しかし一部からは、このルールが実際には十分に実施されておらず、未だに雪が積もると歩道や自転車レーンは使いにくいという批判もあるようだ。ストックホルムでどのようにルールが徹底されていくのか、さらなる動きに注目していきたい。

【オーストリア】LGBTQ+も含むジェンダー平等への取り組み「QWIEN」

オーストリア・ウィーンは、ジェンダー平等の概念を政策全体へ反映するさまざまなプロジェクトを実施しており、世界で高く評価されている。

市が推進するジェンダー平等は、「男女における平等性」にとどまらず、性的マイノリティであるLGBTQ+も含むものだ。今回紹介するその一例は、ウィーン4区に位置する研究所QWIEN。この研究所は15年前に創設され、国内およびウィーン市内のLGBTQ+の歴史に焦点を当てた資料を収集し、ジェンダーマイノリティに関わる研究プロジェクトを実施している。

オーストリア・ウィーンにあるジェンダーマイノリティに関する研究所QWIEN

QWIEN所長であるハネスさん Image via Yukari Fujiwara

LGBTQ+をテーマに自治体が運営する研究所は、ヨーロッパ内でも例を見ないという。「この研究所を始め、政策・規制面でもLGBTQ+への差別をなくし性的マイノリティへの理解を深める上で、ウィーン市の取り組みは高く評価するべきものです」とQWIEN所長であるハネスさんは述べる。また、ここ10年で市内のLGBTQ+を取り巻く状況は大きく改善されたそうで、市の政策によるものが大きいと強調する。

QWIENは研究プロジェクトの実施に加え、一般の人々にLGBTQ+についての認識を広めるため、ツアーも主催している。主にウィーン市内の各地区をめぐり、過酷な面も含めたLGBTQ+の歴史や文化を案内する。今年は教育プログラムとして、中高学年の生徒を対象にしたツアーを企画しているという。

【フランス】女性参加型のまちづくりで、すべての人のための公共スペースに

パリ市は、「パリの通りやカフェ、文化やスポーツ施設などが男女平等には使用されていない」として、2021年5月に女性や子ども、障がい者、高齢者などすべての人が安全で利用しやすい公共スペースのガイドライン「ジェンダーと公共スペース計画」を策定している。

VILLE DE PARIS

VILLE DE PARIS

同市は「女性が排除されていない包括された都市はすべての人に利益をもたらす」という考えのものと、女性市民がパリ市内を散策し、そこで出された意見をまちづくりに反映するといった市民参加型の仕組みを取り入れている。

この参加型の企画により、既存の施設やストリートファニチャー、広場の形状がジェンダーを考慮して設計されていない(バスケットボールやサッカーコートなどは男性の占有率が高い)、公衆トイレへのアクセス改善などの課題が具体的に出され、スポーツ広場の多様化や照明の改善などに取り組んでいる。

その他、パリ市は街の通りの名前が歴史上で活躍した人物であることが多いが、市の調査の結果によるとそのうち女性の名前の使用率はたったの4%であった。そこで同市は、2011年から2017年にかけて100以上の通りに女性の名前を割り当て、20018年にはその割合を12%まで増やしている。ガイドラインに沿って、今後どうまちづくりが進んでいくかに注目だ。

【イギリス】危険な夜道がすべての人にとって安全になるように。アートを通じた啓発プロジェクト

2021年3月3日、ロンドン南部で33歳の女性が警官の男に連れ去られ、殺害される痛ましい事件が起きた。女性が自宅から近所のパブまで移動する5分間の出来事だった。この事件はイギリス全土で怒りや悲しみの声を呼び、女性や女児が夜道を歩く際の安全性を考え直す出来事となった。

Safe Spaces Nowはイギリスで公共空間における暴力・ハラスメントをなくすために、市民の声を拾い上げるキャンペーンを実施したり、自治体に訴えかけたりする団体だ。ウェブ上でアートギャラリーも公開しており、女性の安全性を考える展示をどこからでも見ることができる。

Safe Space Now バーチャルギャラリーの様子

また、ハンナ・ベニハウドというアーティストは、女性にとって夜道が危険であることを啓蒙するアートを、その現場である「夜道」に展示した。闇の中に浮かび上がるカラフルな女性たちのイラストは、すべての人が夜道の安全性について考え直すきっかけになるかもしれない。

ハンナ・ベニハウドによる夜道の安全性について啓蒙するアート作品

Image via Hanna Benihoud

編集後記

ここまで、政策からアート、研究、日常生活にいたるまで、都市生活でのジェンダー平等に向けた各国の現状を見てきた。

日本は、世界でも女性が夜、最も安心して歩ける国の一つだ。データベースサイトの豪NationMasterによると、10万人当たりのレイプ件数は日本は1件で、調査国119カ国のうち15番目に件数が少ない。欧米の多くの国と比較しても、その差は歴然だ。街は清潔で、夜道では街灯が照らされる。日本の秩序や生活習慣をもとに、女性が安心して夜に出歩ける日本の環境も、とても重要な都市インフラかもしれない。

ダイバーシティが重要視されるなかで、誰もが心地よく暮せる都市インフラの形成やまちづくりは欠かせないものであるだろう。企業における女性雇用の促進やダイバーシティ推進活動といった個別の取り組みだけではなく、ひとりひとりが安心して生活できる社会づくりを進めることが求められているのではないだろうか。

【参照サイト】A Safe Space art exhibition – UN Women UK
【参照サイト】Sustainable Gender Equality – a film about gender mainstreaming in practice
【参照サイト】Stockholm defends ‘gender-equal’ snow-clearing
【関連記事】もし、街が「女性目線」で作られたら?ジェンダー平等都市・ウィーンを歩く

Written by Natsuki Nakahara, Yukari Fujiwara, Erika Tomiyama, Megumi
Presented by ハーチ欧州

ハーチ欧州とは?

ハーチ欧州は、2021年に設立された欧州在住メンバーによる事業組織。イギリス・ロンドン、フランス・パリ、オランダ・アムステルダム、ドイツ・ハイデルベルク、オーストリア・ウィーンを主な拠点としています。

ハーチ欧州では、欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、これからのサステナビリティの可能性について模索することを目的としています。また同時に日本の知見を欧州へ発信し、サステナビリティの文脈で、欧州と日本をつなぐ役割を果たしていきます。

事業内容・詳細はこちら:https://harch.jp/company/harch-europe
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