スタジアムの興奮を“振動”に。聴覚障害のあるサポーター向け「歓声に触れる」ウェア

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イギリス・ニューカッスルに拠点を置くサッカーチーム「ニューカッスル・ユナイテッド」のサポーター「Toon Army(トゥーン・アーミー)」は、世代を超えた熱狂的なファン層で知られている。プレミアリーグシーズンに入ると、家族総出でスタジアムに足を運ぶサポーターたちの熱気あふれる歓声や応援歌が響き渡る。

スタジアムでの試合観戦は、テレビとは異なりその場の興奮を直接肌で感じることができる。しかし、会場にいてもその興奮をすべては感じられない人々もいる。その一例が、聴覚障害のある人々だ。耳が不自由なサポーターたちは、興奮を目で見ることしかできない。

そこでニューカッスル・ユナイテッドは、聴覚障害のある人たちのために、地元セント・ジェームズ・パークで開催されるサッカー試合に、スタジアムの振動を体感できる「サウンドシャツ」を導入することを発表した。

サウンドシャツには触覚技術が組み込まれており、ピッチ上でアクションが起こるとその振動を感知して、触覚として感じられるようにする。耳が不自由なサポーターも、このシャツを着ることによって周りの群衆同様、スタジアムの感動的な雰囲気を体全体で感じることができるのだ。

「Unsilence the Crowd(群衆の沈黙を破る)」と呼ばれるこの取り組みは、ニューカッスル・ユナイテッドのユニフォームを手がけるサウジアラビアの企業Sela(セラ)が、イギリス全国にいる難聴や聴覚障害、耳鳴りを持つ人々を支援する王立ろう者協会の協力を得たことで実現した。サッカーのプレミアリーグチームのシャツをデザインする企業が、耳の不自由な人々を支援する慈善団体と手を組んだのは今回が初めてだ。

子どものころからニューカッスル・ユナイテッドを応援してきた、聴覚障害のあるライアン・グレグソンさんとデイビッド・ウィルソンさんの二人は、2024年4月にセント・ジェームズ・パークスタジアムで行われたニューカッスル・ユナイテッド対トッテナム・ホットスパー戦で、サウンドシャツを試着。ともに試合を観戦した。

デイビッドさんは、BBCラジオ・ニューカッスルにこう語った。「耳の不自由な私たちはスタジアムで試合を見ることはできても、実際に周りのサポーターと一緒になって雰囲気を体感することはできませんでした。でもサウンドシャツを着ると、試合観戦に参加しているというつながりを感じることができました。本当に素晴らしいことです」

Selaは今後もニューカッスル・ユナイテッドのホームゲームで、サウンドシャツを提供し続けていく予定だ。聴覚障害を持つサポーターたちが、このサウンドシャツを着てサッカー観戦に参加することは、スタジアムにおけるアクセシビリティの問題に対する認識を広めることにもつながるだろう。

この取り組みが世界中の他のクラブで同様の技術を導入するきっかけになれば、より多くの聴覚障害のあるサポーターたちが、スタジアムでの体験を満喫できるようになるはずだ。

【参照サイト】Deaf fans to feel part of match with vibrating kit
【参照サイト】Newcastle United introduce ‘sound shirts’ for deaf supporters
【参照サイト】Newcastle: Saudi Arabia-based Sela named as club’s main shirt sponsor
【参照動画】Deaf Football Fans Feel Crowd Atmosphere For First Time | #UnsilenceTheCrowd
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Edited by Megumi

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