オリンピック・パラリンピックやフランス議会選挙など、大きなイベントが目白押しの2024年パリの夏。パリ市が市庁舎にて没入型の「Paris!」展を開催している(2024年11月16日まで)。過去10年間のパリをテーマにしており、入場は無料で観光客のみならずパリに住む市民も楽しめる内容となっている。
パリはこの10年で、どんな変貌を遂げてきたのだろうか。
展示会場では、パリに関するさまざまな情報が見られる。例えば、パリに住む人の平均年齢は40歳未満で、住民は180もの国籍で構成されていること。4人に一人はなんらかの形でボランティアを行なっていることや、住民の15人に一人は障害者であること。
こうした情報は、クイズや地図、デジタル体験、図解を通じて紹介されており、子どもでも理解しやすくなっている。
「15分間都市」から10年。歩行者のウェルビーイングを保つことがパリのDNAに
2014年以来、アンヌ・イダルゴ市長は、誰もが徒歩または自転車を使い15分で仕事、学校、買い物、公園、そしてあらゆる街の機能にアクセスできる「15分間都市」を提唱し、自動車への依存を減らすことを宣言。それ以降、パリの街の大改造を主導してきた。
そしてそんなイダルゴ市長の野心は、実際にいくつかの具体的な取り組みにつながった。過去10年で100以上の道路が車両通行止めとなり、パリ市内におけるSUV車の駐車料金は3倍に。約5万の駐車場がなくなり、1,300キロメートル以上の自転車専用レーンが整備された。2011年以降、大気汚染はなんと40%も減少したという。
さらに、これまで自転車にも焦点を当てていたパリは、今後はより歩行者に焦点を当て、すべての市民がアクセスしやすい街づくりを目指していくという。「パリの65%が歩行者であることを考えると、歩行者のウェルビーイングを保つことがパリのDNAである」。展示には、そんなパリが大切にしている哲学が書かれていた。
今となってはもはやそんな光景は想像すらできないが、パリ市民に欠かせない憩いの場であるセーヌ河岸はかつて自動車が走っていた。2016年以降、自動車の出入りが禁止され、今では歩行者や自転車、ランナーだけのものになった。
まちづくりプロセスに市民を巻き込む。都市緑化にも
また、気候危機によるヒートアイランド現象に適応し、住民の生活環境を改善するために、パリではますます都市緑化が進んでいる。これまで15万本の木が植えられ、45ヘクタールの公園もつくられたという。さらに、2016年以降、Parisculeursプロジェクトを立ち上げ、パリ市の補助のもと、市民から70以上の都市農業プロジェクトを生み出した。
2015年以来、パリ市は市民に「緑化許可」を提案している。この制度は、市民が公共スペースの緑化活動に参加できるようにするためのもので、住民は自由に市内に花を植えたり庭を作ったり、道にプランターを設置したりすることが可能となっている。
パリの包括的なまちづくり。多様な人々の声を取り入れる
2024年はパリ市内で3,492人の宿泊場所を持たない人が確認された。これは、2023年1月26日の前回の実施に比べて16%(477人)の増加を示している。
そうした背景を踏まえ、パリ市は過去7年間に渡ってパリの「連帯の夜(Nuit de la Solidarité)」を主導してきた。目的は、ホームレスの人々の状況をより詳しく把握し、それぞれのニーズ(支援、宿泊、食糧など)に応じた対策や公共政策を進めることである。これには毎年2,000人以上の市民が参加しており、その活動は今やパリだけではなくリヨンなど他の地域にも広がっている。こうした活動を通して、市民同士のケアの精神を促しているのだ。
他にもパリ市は、通りや公共スペースの名前に女性の名前をより多く採用する包括的なプロジェクトを行ってきた。パリの通りには歴史上の人物、著名な文化人、科学者、政治家、芸術家などの名前が付けられることが一般的であり、これにより通りの名前は市民や訪問者にとって、その人物の記憶や業績を思い出させる役割を果たしている。
これまでの10年間で、こうした歴史的に男性の名前が多く付けられてきた通りや広場において、女性やLGBTQ+、障害者、民族的マイノリティなどの歴史的貢献を顕彰することを目的としている。2014年以降、すでに317の通りの名前が変更された。
パリの主役は、いつだってあなたたち。過去と未来をつなぐ役割を果たす展示
展示の最後には、未来の世代へのメッセージをカプセルに封じ込めるセクションがあった。来場者は、未来のパリ市民に対してメッセージを残すことができるのだ。また、その隣に置かれているのはマイクである。ボタンを押すと、パリという街への夢や希望などを録音して残すことができる。
「詩を朗読してもいいし、即興で歌ったり、ラップしてもいいです……パリの主役は、あなたたちです!」
こうして集められたメッセージは、市内のカナルヴァレ博物館で保管され、18年後の2042年、サラ・ベルナール劇場で公開される予定となっている。
美しい街は、決して自然にできるものではない。市民参加と民主主義の取り組みを通じて、包摂的なまちづくりを目指すパリ市の展示を通して、市民一人ひとりが関わり、共につくり上げるまちづくりの大切さを再認識した。
フランス議会選挙など日々揺れているパリであるが、オリンピック・パラリンピックは、同市のこうしたまちづくり政策のスピードを早める大きなきっかけになったことは間違いない。「パリ!」展は、いまだ多くの人々を魅了する、この街の軌跡を描いている。
【参照サイト】3 bonnes raisons de découvrir l’exposition gratuite « Paris ! »
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