パリ・シャンゼリゼ大通りで世界最大の「口述筆記」開催。その理由は?

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フランス・パリの世界的観光地である、シャンゼリゼ大通り。2023年6月第一日曜日、その石畳の上に並べられた1,799台の座席に、子どもからお年寄りまでが行儀よく座り、なにやら真剣にペンを動かしていた。

朗読大会

Image via l’agence ubi bene

この日、歩行者天国となったシャンゼリゼ通りが巨大な青空教室に変わり、「Grande Dictée des Champs(世界最大規模の口述筆記)」が行われた。フランスの古典文学作品から抜粋された文章の朗読を聴き、その場で書き取りを行うというものだ。Comité Champs-Élysées(シャンゼリゼ委員会)の企画によって実現した。

パリ・シャンゼリゼ

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参加者は10歳以上であれば誰でも応募ができ、当日は5万人もの応募の中から、抽選で選ばれた5,000人以上が参加。朗読は3部制となっており、各回1,779名が参加した。世界最大規模の口述筆記であるとして、ギネス世界記録を樹立した。

その豪華さは、運営側の顔ぶれからも伺える。フランスの有名作家のラシッド・サンタキ氏が司会を務め、朗読者には、作家のカトリーヌ・パンコール氏、文芸ジャーナリストのオーギュスタン・トラペナール氏、パリ副市長のピエール・ラバダン氏の3名。

登壇者

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世界最大規模の口述筆記開催の背景にあったのは、フランスの識字者を増やそうという教育的な側面だった。国立文盲対策機関(ANLCI)によると、フランス首都圏の18~65歳の非識字者数は人口の7%で、その数は250万人にのぼるという。

この口述筆記の採点や、ランキングや賞品の授与などは行われなかった。運営側は、「学校にまつわる悪い記憶を払拭すること」を口述筆記の目的として掲げている。

パソコンやスマートフォンが主流になり、文字を書く機会が減っている現代において、「書き取り」と聞くと、なんだか古めかしいものに感じるかもしれない。デジタル化された世界において、書き取りは一体どのような役割を果たすのだろうか。司会を務めたラシッド氏は、仏Figaro誌に対して、こう語っている。

「今日では、急速なメッセージや音声メッセージによって言葉の意味や重さについてあまり深く考えることは少ないかもしれません。しかし、“書かれたもの”は社会的な指標です。(中略)書き取りは典型的なフランスを表しており、私たちの文化遺産の一部です」

実はこの「書き取り」は、極めてフランスらしいものであり、小・中学校でもよく行われる。理由として、フランス語の綴りは発音記号やハイフンも多かったり、書かれていても口頭では発音されない文字があったりと、その複雑さが挙げられる。筆者もフランス語を学びながらいつも頭を悩まされているのだが、フランスを母国語にする人でさえも、フランス語を一字一句正確に書き取ることはなかなか難しいことなのだという。

それでも、言語には文化やその地域のアイデンティティが詰まっている。ペンを持って文字を書くことで、普段キーボードを打つだけでは気づかない、文化とのつながりも見えてくるかもしれない。

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【参照サイト】VIDÉO – Dictée géante sur les Champs-Élysées : record du monde battu
【参照サイト】Dictée géante sur les Champs-Élysées : «C’est un exercice typiquement français»

Image credit:l’agence ubi bene

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