予定のない週末。そうだ、映画でもみよう。
このふとした衝動に、定額で好きなだけ映画を見ることができるオンラインの動画配信サービスのサブスクリプションの仕組みがよく適合している。今の便利すぎる時代に、そうしてひたすら家に籠る人も多いだろう。それも心地よいが、この状況が、ドイツでは変わるかもしれない。
近年、映画館に足を運ぶ人が少なくなっている。2022年のドイツの映画館観客数は、パンデミック前の2019年と比べて約33%減の7,350万人となり、2018年の合計9,610万人より23.5%減少した(※)。
そんな中で2024年の10月からドイツで始まるのが、月額わずか12.5ユーロ(約2,100円)で映画館に行き放題になるサブスクリプションサービスだ。
ドイツでサブスクといえば、昨年5月に導入された「鉄道乗り放題チケット」が記憶に新しい。月額49ユーロ(約8,270円)で、高速列車を除くドイツ全土の交通に乗り放題になるもので、一部を除き各市が運営するバスやトラムなどの地域交通も含まれており、ドイツ国内であればどの街でも移動の出費を気にする必要がないのも嬉しい。
そんなドイツで今回始まった、映画鑑賞し放題を提供する「Cinfinity(シンフィニティ)」というサービス。サービス創設者のRalf Thomsen氏とMartin Turowski氏の二人は、映画館経営者でもあり、配信サービスの普及による映画館の観客数の減少を肌で感じていた。今回FFA(Filmförderungsanstakt、ドイツ連邦映画基金)の資金提供を受け、2年の構想を経てローンチに至った。
登録は専用アプリを通じて行い、チケット予約もアプリ内で行う。最低6か月の継続を条件に誰でも登録することができ、ギフトとしての購入も可能だ。ドイツの映画鑑賞料金は10ユーロ程(約1,680円)なので、毎月2回映画館へ足を運べば元が取れてしまう。
現在ドイツ全土の100程度の映画館が同サービスに賛同済みと公表されており、今後徐々に対象の映画館は増えていく予定だ。会員は未賛同の映画館の加入をリクエストできるが、既に独自の会員制度を持つ大手映画館の賛同を得られるかは定かではない。Cinfinityは、会員の月当たり1.5回の鑑賞を想定しており、10〜20%の観客数の増加を予測している。
類似のサービスとして、オランダ発の「Cineville(シネヴィル)」がある。会員はカードを提示することで対象の映画館で無制限に映画を鑑賞できる。2004年にアムステルダムで始まった本サービスは、現在オランダ40都市の70以上の映画館が賛同しており、2022年には会員数が9万人を超えた。2022年にベルギー、2023年にオーストリアと、ヨーロッパの他の国へも展開されており、現在スウェーデンへの導入が準備中である。
価格は国によって異なるが、オランダでは30才以上で月額22.5ユーロ(約3,801円)。Cinevilleはオランダにおける観客数の増加に成功し、小劇場も含む映画文化の多様性の発展に貢献した。会員の87%は月平均2.5回、加入前の1.5倍映画館へ訪れているという。
ドイツで友人から映画に誘われるのはいつも20時過ぎ。夕飯をすませてスナックや飲み物を持って映画館へいくと、映画館は賑わいを見せ、人々は一日の最後の時間を楽しんでいる。
「映画館で非現実的な世界に浸ったまま眠りにつくのがいいんだよ。寝る前に本を読むのと同じようにね」
よく私を映画に誘ってくれたルームメイトが言っていた。我々の余暇の選択を大きく変えているサブスクリプション。出費を気にせず好きなだけ享受できるサービスが様々な分野に広がっている。映画館だからこそ味わえる非現実的なひと時が、ドイツ人の生活にとけこんでいくのだろう。
※ Admissions fall 33.1% in Germany in 2022 compared to pre-pandemic levels
【参照サイト】Cinfinity
【参照サイト】A Deutschlandticket but for cinemas? It’s coming to Germany this autumn
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Edited by Erika Tomiyama