世の中に雑草という草はない
このように語り、1,500種以上もの植物の「名づけ親」になったのは、NHKの連続ドラマ「らんまん」でもおなじみ、牧野富太郎博士だ。
名前をつけるという行為は、その対象との関わりに愛着を生み、つながり続けること。名前というつながりをひとたび持てば、同じ世界でより近くで生きている同行者に感じられる。「命名」は周りの命に意識を向け、これまでの自分が見ていた世界をも変える行為でもある。
そんな「命名」というささやかなギフトを、庭先で歌を口ずさむ訪問者に贈ってみよう。そんなふうに提案するサービスがある。米国で自然保護テクノロジー企業が開発したバードフィーダー(鳥の餌台)、「Bird Buddy」だ。
Bird Buddyは「Name that Bird」と呼ばれる新たなAI機能を搭載している。野鳥好きのあなたが庭にこのスマート餌台を置くとしよう。しばらくすると、あまり見慣れないタイプの鳥が幾度となくやってくるかもしれない。
その鳥に思い切って「ボブ」と名前をつけるのだ。鳥に「ボブ」はないだろう、という気もするがまあいい。するとAIカメラがボブを個体認識し、ボブが次にやって来たときに「ボブが戻って来た」とアラートで知らせてくれるのだ。あなたは、鳥、いや、ボブとのつながりをいっそう深めるに違いない。
このバードフィーダーは、ほかにも、鳥の保護に貢献できる機能も搭載している。ケガなど状態の悪い野鳥が来たらアラートで知らせ、助け方を教えてくれるバードケアや、猫などのペットが近づいたときに知らせるペットアラートだ。さらにAIカメラはアライグマやトカゲ、昆虫など、鳥以外の野生動物も識別できるように機能が拡張され、より多くの自然とつながることができるようになった。
さらに、Bird Buddyをディスプレイやスピーカーとつなげれば、殺風景な屋内でも、自然の音や風景をシームレスに取り入れられる。野鳥(ボブ)のさえずりで目覚めることも可能なのだ。
このBird Buddyは2022年にリリースされて以来、人気を博しており、20万人以上の人々がこのバードフィーダーのカメラで、野生動物のユニークな姿を捉え、SNSに写真をアップしてきた。
開発した会社の目標は、自然とのつながりを深め、生態系の回復を手助けすることだという。冒頭で紹介した牧野博士のように、「名づける」ことによって野生生物とつながり、共に生きる体験をしてみてはいかがだろうか。名づけ親になれば、もう他者ではいられない。ただの観察者ではなく、自然の一部として生きることは、そうした小さな出来事から始まるに違いない。
【参照サイト】Bird Buddy公式ホームページ
【参照サイト】高知県立牧野植物園 牧野富太郎年譜
Edited by Erika Tomiyama