AIが「船長」に。IBMが変革する、海洋研究のミライ

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私たちが、母なる海について知っていることは想像以上に少ない。人類が海に関して持っているデータの量は、火星の表面に関するデータの量よりも少ないという事実をご存知だろうか。

地表の4分の3を覆い、世界の酸素の50%以上をつくる海。そして1980年代以降、排出された余剰熱の90%を吸収し、人間の活動で生み出されたCO2排出量の20〜30%を吸収し、気候変動を緩和してくれているシステムの司令塔である海。にもかかわらず、マイクロプラによる汚染や、生息地環境の変化、海洋哺乳類などの特別な種への影響などに関する海洋調査は、なかなか進んでいないのだ。

その理由の一つが、調査航海船の乗組員たち、つまり人の力で調査することに限界があることだ。船には乗組員に行きわたるほどの食料や水だけでなく、寝台やトイレ、医療・衛生用品など、人が生きていく上で必要な設備や物資を整える必要がある。そしてそれらのスペースは、科学者たちが必要としている重要データの調査機器やセンサーを組み込むスペースを圧迫する。私たちが「海の健康」を取り返しのつかないところにまで追いやってしまう前に、なんとかしなければ――。

そこで登場したのが、AI(人工知能)を「船長」として海洋調査を急激に進めるアイデア。IoTやエッジ・コンピューティングなどの最新テクノロジーを搭載し、完全無人での大西洋横断を実現することで、海洋調査の未来に大きな可能性をもたらそうという、IBMの「メイフラワー号」プロジェクトだ。

メイフラワー号プロジェクトは、イギリスの港湾都市プリマスからアメリカのマサチューセッツ州プリマスまでの初航海から400周年を記念し、その航路をたどる企画でもある。動力は太陽光エネルギーであり、航海を支える最新テクノロジーに関しては米IBMが全面的に協力している。このプロジェクトが現在世界の注目を集めているのは、成功すれば海洋ドローン(無人操作機)と海洋研究の未来を一変させると考えられているからだ。

IBMは現在、国連環境計画(UNEP)と共同で、市民科学者からのデータとAIにより海洋汚染に取り組むプロジェクトも進めている。両プロジェクトに共通するのは、海に対する理解を深め、海の使用と管理をどのようにすればより持続可能となるのかを探るものであること。このゴールが達成されるか否かは、いかに多くのデータを収集できるかにかかっている。AI船長の責任は重大だ。

2019年に発行された国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の海洋に関する特別報告書によれば、海はこれまでになく汚染され、熱くなり、酸性度を高め、生産性を低め、嵐や高波の恐れを高め、予測不可能となっている。そしてこれらの脅威の原因の多くは、人間の活動によるものとされている。

言うまでもない事だが、大西洋は広大であり、海上では常に衛星回線に接続していることは不可能。悪天候をはじめとした大自然の脅威が待ち構えているだろう。また、大量の漂流ごみや座礁した貨物船など、海には人類による無数の傷跡も残っている。地球上のすべての生物にとっての母である海を守るためには、テクノロジー企業だけではなく、あらゆる人と組織の英知の結集が欠かせない。

メイフラワー号プロジェクトは海の健康を取り戻すスタートに過ぎない。われわれ人類に残されている時間は限られていることを忘れずに、今後の調査の進展を望みたい。


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筆者プロフィール:八木橋パチ(やぎはしぱち)

パチさん日本アイ・ビー・エムにて先進テクノロジーの社会実装を推進するコラボレーション・エナジャイザー。<#混ぜなきゃ危険>をキーワードに、人や組織をつなぎ、混ぜ合わせている。運用サイト: AI Applications Blog

Edited by Kimika Tonuma

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