サンフランシスコ生まれの「蜂が作らない」ハチミツ

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トーストに塗ったり、紅茶に入れたり。私たちが食卓で当たり前に目にするハチミツ。そんな家庭の食材が、自然環境を脅かす原因となりうることをご存じだろうか。世界の養蜂市場は、2020年で95億ドル、2026年には118億ドルに達すると予測されている。

しかし、ハチミツ生産の際にハチを人工の巣箱に収容することは、個体群の多様性を制限する場合がある。なぜなら、倉庫などに高密度で巣箱が置かれたとき、病原体が潜む可能性が高まるからだ。現に、商業用養蜂の影響で、在来のハチ2万種が死に瀕しているという。

即座にこの問題解決に取り掛かったのがサンフランシスコのスタートアップ企業「MeliBio」だ。ダルコとアーロンによって設立された同社は、化学やテクノロジーを駆使することで、よりサステナブルなハチミツ市場の構築を目指している。それはつまり、ハチを必要としないハチミツ製品の生産である。

この目標を達成するために、同社が手がけたことが二つある。一つ目は、ハチが植物に受粉する経路とハチミツを作るために抽出される物質の調査。そして二つ目は、ハチを搾取しないハチミツの作成方法の検討だ。

これらのプロセスで鍵となるのが、「精密発酵(precision fermentation)」だ。代替タンパク質に特化した情報を発信するGood Food Instituteの記事によると、「精密発酵」とは微生物宿主を「細胞の工場」として機能させ、特定のタンパク成分を発酵で生成する技術のことを指す。

MeliBioの公式ホームページによれば、同社で販売されるこのハチミツは、食品業界を変えるだけでなく、私たち一般消費者にも大きなメリットがあるという。季節に関係なく、1年を通してハチミツの生産が可能になるため、世界中で購入が容易になる。また、動物でなく植物を資源として選択していることも、商品の魅力であろう。

MeliBioは現在、検証研究に携わる約30社と協力し、2022年4月に始まる正式な商品発売に向けて準備を進めている。同社は、食品サービスへの事業拡大のため、近頃570万ドルの資金を調達することに成功した。新しい資金は、「精密発酵」の更なる開発と研究に費やされ、ハチミツ以外の食材への適用も現在検討中だという。

ハチは、生物多様性と食料生産に不可欠な存在だ。ハチを含む昆虫は、作物種の約75%の受粉をする役割を担っており、受粉がなければスーパーに並ぶ果物や野菜の数は半減すると推定されている。

私たちの生活を豊かにするハチミツ。重宝されている食材だからこそ、選択肢が増えていくのは喜ばしいことだ。MeliBioの商品が店頭に並ぶ日が訪れると良い。

【参照サイト】MeliBio
【参照サイト】BEE-FREE HONEY ARRIVES ON THE MARKET
Edited by Megumi

寄稿者プロフィール:田幸美布(たこう・みぶ)

イギリス在住の高校2年生。幼児期をロンドンで過ごした後帰国し、2019年に14歳で再び渡英する。中学・高校で学校新聞に携わったことでジャーナリズムと社会学に興味を持つ。また、現在通うインターナショナルスクールで文化や価値観の多様性を直に経験し、サスティナビリティやウェルビーイングに対する各国のアプローチに関心を抱くようになる。旅行、映画鑑賞、ファッション、ダークチョコレート、都会の夜景が好き。

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