官民問わず熱を帯びる、宇宙産業。スタートアップの参入も相次いでおり、今後も宇宙ビジネスの拡大が予想されている。そんな今だからこそ、私たちは「いつか月面に行けるだろうか」と想像を膨らませる。
宇宙研究は、その想像から一歩前進し「ほかの惑星に住むためには」という問いがすでに検証されている。アメリカ航空宇宙局(以下、NASA)では月や火星での長期的な生活を想定して、宇宙空間で使用できる住居建材を調査しているのだ。
地球と比較して、人間が活用できる資源に制限がある月や火星。そこでの生活を想定することは、限りある資源を効率よく使用すること、つまり持続可能な暮らし方の探索にもなっているという。
その一つとして「菌が育てる住宅」をNASAのエイムズ研究センターの調査チームが提案している。これは、Mycotecture Off Planetというプロジェクトで、2018年頃から菌糸を使用した住居や家具の製造研究が進められている。地球から持ち込んだ菌に水を与えて培養し、必要とする建材や家具の形に生成することで住宅に必要な材料を作るという。
この研究で活用されるのは、シアノバクテリアという菌だ。この菌は、太陽光エネルギーと水、二酸化炭素を栄養素として酸素と有機物を生成する。この有機物が建材の基盤となり、酸素は宇宙飛行士の呼吸に利用される。
最終形態として想定されている建材は三層構造になっており、表面は氷で覆われ、その水が二層目のシアノバクテリアに溶け込み、三層目として中心部に有機物が生成されていく仕組みだ。宇宙に生息する微生物を汚染しないよう、この建材は月や火星での使用前に焼き固めるという。
プロトタイプでは、レンガのようにブロック型にした建材が試作され、2024年6月には、2年間にわたる200万ドル(約2億9,500万円)の資金提供を獲得した。
同プロジェクトのウェブサイトでは「地球上の炭素排出量の約40%が建設によるものであるため、地球上でも持続可能で手頃な価格の住宅に対するニーズがますます高まっています」
と指摘。宇宙を舞台にした技術開発が、地球上での生活にも大いに役立つことを示唆している。
主任研究者であるリン・ロスチャイルド氏も、こう語っている。
「宇宙での使用を想定したデザインを生み出す場合、地球上で行うよりもはるかに自由に新しいアイデアや材料を試すことができます。そして、これらのプロトタイプが他の世界向けに設計されたあとには、それを地球で応用することができるのです」
宇宙研究で発見され、暮らしの役に立っている技術は多く存在する。例えば、フリーズドライ技術。これは宇宙食の開発において、食品の栄養を維持したまま軽くして持ち運ぶことができる技術として採用されたという。より環境負荷を抑えた暮らし方の実例が、宇宙研究から生まれる日も近いかもしれない。
【参照サイト】Could Future Homes on the Moon and Mars Be Made of Fungi?|NASA
【参照サイト】NASA reveals game-changing material that could alter the future of construction: ‘Benefiting industry, our agency, and humanity’|The Cool Down
【参照サイト】NASA tests growing fungi habitats in outer space|Archinect News
【参照サイト】日本企業の宇宙ビジネスの可能性―序論―|PwC
【参照サイト】月や火星で建物を“育てる”? NASAが菌糸体の利用を研究するプロジェクトに助成金を支給
【参照サイト】こんなところに! 宇宙開発研究から実用化された身近にある技術10選
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