人間も自然の一部。オックスフォード英語辞典が「Nature」の意味を再定義

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「自然」という言葉を聞いたとき、何を思い浮かべるだろうか。道端の草花や木、あるいは広大な海や森の風景や野生動物……多くの人がこうしたものをイメージしたかもしれない。では、私たち“人間”は、そのイメージの中に存在しただろうか。おそらく多くの人が、自然の中にいる人間は想像したとしても、「人間も自然である」とは考えなかったのではないだろうか。

「人間」と「自然」──現代を生きる私たちは、この2つを当たり前のように分けて考えている。しかし、こうした人間を含まない「自然観」は、本当に正しいのだろうか。

イギリスの環境活動家であるフリーダ・ゴームリー氏は、2023年にコーンウォールの植物園兼保護センター、エデンプロジェクトで開催された会議で初めて「自然(Nature)」の辞書定義を耳にしたという。オックスフォード英語辞典にもとづくその定義は、以下のようなものだった。

nature:The phenomena of the physical world collectively; esp. plants, animals, and other features and products of the earth itself, as opposed to humans or human creations.
自然:物理的な世界の現象を総称して指すもの、特に植物、動物、地球そのものの特徴や産物を指し、人間や人間の創造物とは対照的である。
出典:オックスフォード英語辞典 nature 意味と使用法

人間は自然に含まれていない──ゴームリー氏はこの定義に大きなショックを受けたという。

さらに調べてみると、現在、イギリスの英語辞書のすべてが「自然」を人間や人間の創造物と別物として定義していたという。このような定義が、人類が自然界と対立し、分離しているという認識を助長し、それが環境問題を加速させている。そんな問題意識からゴームリー氏が始めたのが、辞書における「自然」という言葉の定義を見直し、人間を含めたより広い意味を持たせるよう求めるキャンペーン・We Are Natureだ。

ゴームリー氏は、自然のため活動する弁護士や研究者の団体であるLawyers for Natureと共に活動を始めた。その過程で、活動家たちは人間の存在そのものを再定義する重要性にも気づいていったという。彼女は、「このキャンペーンは、単に辞書の定義を変えるだけでなく、私たちが自然からどのようにして分離してしまったのか、そしてどうすれば再び自然の一部として生きられるのかを探る旅でもあった」と、Guardianに語る。

自然の中にある本

調査を進めるうちにわかってきたのは、人間と自然を二分して考える現代の価値観は、科学的な観点から見ても、極めて不自然であるということだ。

レディング大学の生態学者であるトム・オリバー教授によれば、人間を自然と別物とする考え方は、数千年にわたる西洋の思想に根ざしているという。同氏は、これが科学的には理にかなわないと述べる

オリバー氏によれば、フランスの哲学者で近世哲学の祖として知られるルネ・デカルトが提唱した「心は神のようなものであり、私たちの体や他の生物の体はただの無生物の物質に過ぎない」という考え方が人間と自然の分離を強調する元となった。そして、他の西洋の哲学者たちも「自然の状態」から離れることが人間の進歩であると考えており、そうした思想が私たちの脳に吸収され、孤立感や自己中心的な世界観を助長してきたという(※)

しかし実際は、人間の体には人間の細胞と同じ数の細菌細胞が存在し、それらは人間のDNAの約3分の1を共有している。さらに、人間の心もまた、他の人々との会話や自然界の要素に反応して絶えず再構成されている。つまり、私たちの体や心は自然や他の人々と切り離されたものではなく、お互いに深く結びついているのだとオリバー氏は語る

キャンペーンの中では、学者や作家、活動家、環境保護主義者、弁護士たちに「自然をどう定義するか」を尋ねた。その結果、そのほとんどが、人間を自然の一部と定義していたことがわかった。以下は、その一例だ。

「私たちは自然を守る自然である。そして自然は私たちであり、この貴重な生命をもたらす地球上のすべての相互依存する生物である。」
「すべての動物、植物、岩石、川、風、人間を含む自然界全体。生きている地球とその表現。宇宙。」
出典:We Are Nature – the campaign to change the dictionary definition of Nature

こうした科学的な事実や知識人たちの解釈にもとづき、ゴームリー氏らは、辞書における「自然」の定義を見直す必要があると確信したという。

当初、キャンペーンは難航するかに思えた。しかしゴームリー氏らは、オックスフォード英語辞典の有料コンテンツの中に、1873年以降、時代遅れだと見なされていた「自然」の別の定義を発見したという。それは、「広義では、(自然は)人間や宇宙を含む自然界全体(In a wider sense, the whole of the natural world, including humans and the cosmos.)」というものだった。

そこで彼女らはこの定義を復活させるべく、オックスフォード英語辞典に働きかけた。その結果、この定義が同辞書の無料のコンテンツに含まれることになったのだ。元々上記の定義につけられていた「時代遅れ(obsolete)」のラベルも削除された。これにより、誰もが人間を含む自然の定義にアクセスできるようになった。

「We are a part of Nature, not apart from Nature(私たちは自然から離れたものではなく、自然の一部である。)」
出典:We Are Nature

We Are Natureは、このシンプルな一文の力を信じて、引き続き活動を行なっている。キャンペーンのウェブサイトからは、自分自身が考える自然の定義を誰でも名前と共に投稿することができる。自然とは、何なのか。その定義の中に自分自身を含めたうえで、改めて考えてみたい。

What is ‘nature’? Dictionaries urged to include humans in definition

【参照サイト】What is ‘nature’? Dictionaries urged to include humans in definition
【参照サイト】We Are Nature – the campaign to change the dictionary definition of Nature
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