環境に優しい移動手段として支持され、新型コロナの感染拡大時には、密を避けながら運動ができる手段としても人気を集めた自転車。中でも、パンデミックを超えてもなお成長を続けているのが、電動自転車だという。2022年には電動アシスト車の国内販売数が79.5万台にのぼり、一般的な自転車の販売数・69.7万台を初めて上回った(※1)。
一方で、電動自転車は一般的なものよりも値段が高く、誰でも気軽に利用できるとは言い難い。高価であるが故に、海外を中心に盗難被害も相次いでいるという。こうした背景は、自転車の利用者増加においての大きなハードルだろう。また、新たに電動自転車を購入することによって、製造に伴うCO2や、バッテリーの原材料採掘による環境負荷が生じることも、無視することはできない
こうした課題を改善する手立てとなるのが、アメリカで誕生した外付けの電動アシスト「CLIP」だ。自転車の前輪をクリップのような機械で挟み込むと、どんな自転車も電動自転車に生まれ変わらせることができる。本体は手持ちの自転車であるため、より低価格での電動自転車へのアクセスを可能にし、生産のために新たに投入される資源を減らせる。さらに付け外し可能なため、電動自転車を狙った盗難の心配もなくせるのだ。
取り付ける際、特別な工具は必要ない。まずはCLIPをフロントフォーク(ハンドルと前輪を繋ぐパーツ)に引っ掛けて固定し、回転力を変えるためのワイヤレスボタンをハンドルに括り付ける。これで準備完了だ。通常は250ワットを継続し、坂道などパワーが必要な場面では最大450ワットでモーターが稼働。これにより、時速およそ24キロまでの加速を可能にするのだ。
このCLIPが社会に与えるインパクトは幅広い。例えば、坂道があるため子どもの送迎や買い物の際に自転車を諦めて車で移動している人や、足腰に自信がなく車に頼りがちな人に対し、CLIPは新たな移動の選択肢をもたらすだろう。さらに、すでに愛用している自転車を手放すことなく機能を加え、その寿命を伸ばすことができ、環境負荷の軽減にも繋がるだろう。
視野を広げて見てみると、電動自転車の環境負荷は、製造後も石油燃料を必要とし続ける乗用車と比べればはるかに小さい。ライフサイクル全体における一般的な自転車のCO2排出量は1キロあたり21グラムであるのに対し、電動自転車は1キロあたり22グラム、乗用車は271グラムと、その差は歴然だ(※2)。
CLIPは、車から自転車へと交通手段を変える、つまりは生活習慣を変えるための橋渡しにもなる。自転車のカテゴリーの中で選択肢が広がることで、より多くの人が心地よく環境に優しいツールを利用できるようになるだろう。
※1 「電動アシスト自転車」発売30年、販売数は今や普通の自転車超え…車・バイクメーカーも参入模索
※2 CyCle more often 2 Cool down the planet ! Quantifying Co2 savings of cycling|european Cyclists’ federation
【参照サイト】CLIP + Bike
【参照サイト】CO2排出量の少ない自転車 世界の取り組みは? 日本の環境対策と比較し再確認しよう|自然電力HATCH
【関連記事】チョコは、風と自転車で運ぶ。オランダ・Chocolatemakersの“スローな”ビジネスの流儀
【関連記事】車のナンバーが、自転車の割引コードに。パリの“お得な“乗り換えキャンペーン