2024年は、修理についての動きがグローバルに加速した年と言えるだろう。5月30日、EUでは「修理の権利」が採択され(※)、消費者が自分たちの製品を修理できる権利を認める動きが広がっている。これは、製品をもっと修理しやすく設計することや、必要な情報と部品を提供することがメーカーに求められるようになったということだ。
こうした流れを受け、世界各地で修理コミュニティの活動も活発になっている。IDEAS FOR GOODでは、オランダのリペアカフェに密着したオリジナルドキュメンタリー『The Repair Cafe リペアカフェ』を制作し、今年は特に「修理」というテーマに深く向き合う年になった。
この記事では、そんな2024年に新たに生まれた「修理」の仕組みや事例をピックアップして紹介していく。
世界で「修理」の仕組みをつくった事例5選
01. 設計図がオープンソースとして公開されている、ドイツ発のミキサー
「re:Mix」は、長期間修理やアップグレードが可能なキッチンミキサー。誰でも簡単に修理できる設計が特長だ。製品はオープンソースで設計図が公開されており、部品も市販されている一般的なものを使用。すべての構成部品がモジュラー設計となっており、主要材料には再生プラスチックが採用されている。
製造から販売、修理までをベルリンの自社工場で一貫して行うことで、製品の輸送に伴う温室効果ガスの排出を抑制。さらに、使用済みの製品は自社で買い取り、改修後に市場に再流通させることで、製品ライフサイクル全体の廃棄物を削減し、サーキュラーエコノミーの推進に貢献している。製品はユーザーのニーズに合わせてカスタマイズ可能で、長く愛用できる設計だ。
02. VEJAがパリに「靴の修理専門店」をオープン
フランス発の人気スニーカーブランド・VEJAは、パリに「VEJA General Store」というスニーカー修理専門店を開設し、自社製品だけでなく他ブランドのスニーカーも修理するサービスを提供している。この店舗は、スニーカーの製品寿命を延ばすことを目的とし、持続可能な消費行動を促進することを重視。さらに、社会復帰を目指す人々に職業訓練の機会を提供することで、地域社会への貢献も行っている。修理費用は可能な限り低く抑えられており、5ユーロからの手頃な価格でサービスが提供されている。
店舗の運営では、再生可能エネルギーの使用により環境負荷を削減。VEJAは広告費用を削減し、その節約分をサプライチェーンの改善や生産者への適正な報酬に再投資することで、公正な貿易実践にも努めている。このような経済的な再配分は、製品の品質向上や労働条件の改善に寄与し、あらゆる消費者が商品にアクセスしやすくなるようにしている。
03. 依頼者も店も気軽に。ウェブ完結の衣類お直しサービス
「MENDED」は、衣類の修理を手軽に行えるウェブ完結型サービス。利用者が店舗に足を運ぶことなくオンラインで衣類の修理を依頼し、送付から返送までの全過程を管理することが可能だ。
昨今はブランドが直接関与する回収・修理インフラの整備が難しい中、このようなサービスが注目されている。MENDEDは、服の回収、修理、そして返送を担う企業として機能し、利用者が時間を節約し、環境への負担を減らす手助けをしてくれるのだ。
また、MENDEDは特に初めてのユーザーや修理経験が少ない人々にとってアクセスしやすい選択肢となっており、これまで修理を依頼したことがなかった多くの人々が利用しているとのデータもある。このサービスは、従来の衣類修理と比較してハードルを大幅に下げていると言えるだろう。
04. 誰にとっても修理のハードルを低くする電気ケトル
Osirisは電子部品の修理に対する消費者の不安を取り除くことを目的に設計された電気ケトルで、故障や交換のときに取り出すべき部品が一つのパッケージに収まっている。この設計により、部品交換だけで修理が完了し、誰でも簡単に、かつ失敗することなくリペアが可能となる。このアプローチは、修理のハードルを大幅に下げることで、より多くの人が自分で製品を修理しやすくなることを目指している。
このアイデアの実用化において要となるのは、製造者による取り替え部分の継続的な提供と、消費者によるその部品の利用。Osirisの開発者は修理のアクションを促進するために交換パーツをすべて一つのケースにまとめる工夫を凝らし、誰もが怖がらず修理のプロセスに参加できるようにした。
05. 子どもたちに届く、「壊れた機械」のサブスクリプション
イギリスのTeam Repairという企業は、実際に壊れた電子機器を修理して遊べる子ども用の「修理キット」を用いた教育プログラムを、月額サブスクリプション形式で提供。サブスクリプションを始めると、箱に入った修理キットが自宅や学校に届く。キットの中に入っているのは、壊れた電子機器と修理に必要な工具。電子機器は、実際に動作不良のあるレトロなゲーム機やラジコンカー、懐中電灯などだ。
修理方法は動画で学ぶことができ、専用アプリやカリキュラムに沿ったアクティビティも用意されている。一連のプログラムは、子どもたちがガジェット(電子機器)の仕組みを理解したり、課題解決能力を育んだりできるように設計されており、修理スキルの習得も期待されている。
まとめ
いかがだっただろうか。「直すよりも、新しく買う方が安い」とも言われる昨今、修理のハードルが高くなってしまったのも事実だ。しかし、紹介した事例のように、そうした仕組み自体を変化させようとする動きも、ますます強くなっている。今後は製品をつくる側の対応だけではなく、消費者側のマインドセットの変化も起こっていくかもしれない。
また、修理という行為は、単に製品の寿命を伸ばすだけではなく、そうした行為に関わること自体が修理する人々の心を癒すとも言われている。ともに修理する人々の存在、そしてそこに出来上がるコミュニティは、私たちの暮らしを豊かにする材料となっていくだろう。
『The Repair Cafe リペアカフェ』上映会情報
IDEAS FOR GOODのオリジナルドキュメンタリー『リペアカフェ』は、今後各地で上映会が予定されています。上映会の情報は、IDEAS FOR GOODの特設ページで随時更新されますので、気になる方はぜひチェックしてみてください。
また、IDEAS FOR GOODでは企業、行政、教育機関、地域コミュニティ向けに『リペアカフェ』の自主上映プランをご用意しています。上映会の主催を希望される方は特設ページの最下部「上映会を主催しませんか?」をご覧いただき、お問合せください。
※ EU、消費者の「修理する権利」を新たに導入する指令案で政治合意
【関連記事】The Repair Cafe リペアカフェ
【関連記事】【2023年グッドアイデア】「この発想はなかった」世界で進む研究・テクノロジー事例7選