世代を超えた交流が、高齢者へのケアを育む。シンガポールの「多世代交流住宅」とは?

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日本同様、シンガポールも急速に高齢化が進む国の一つだ。そんな環境では、福祉や介護、生活環境や地域コミュニティといったさまざまな分野での公的な対策が、高齢者本人や家族の負担を軽減するのに役立つ。

シンガポール土地公社(SLA)は、近年空き地化している多くの学校跡地や国が所有する土地を再利用し、世代を超えた共同生活環境づくりを模索中だ。2025年3月頃までに、その一歩として、旧学校跡地に世代間共同生活スペースをオープンさせる。これまで、シンガポールには同世代が使用できるコリビング(Co-Living)施設は存在していたが、高齢者と若者の両世代が交流できるコリビング施設は、国営施設として初めてだ。

集合施設には、老若男女が共用できる空間と、107室の部屋を備えた居住棟を配置。敷地内には、共有のキッチンやラウンジ、コミュニティ・ガーデンや多目的ホールがあるほか、高齢者のフィットネスをサポートするスマート機器を備えたジムなど、世代を超えた居住者のニーズに応えるための施設が整っている。

高齢者用に配置された一階の部屋には、専用バスルーム、手すりや転倒検知センサーといった安全装置が設置され、敷地内には看護補助者や医療相談員が常駐する。また、居住者は、運営会社のTS Groupが提携している病院の医師による定期的な診察も受けられるという。

Image via Singapore Land Authority

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さらにTS Groupは、若い居住者がシニアコミュニティの活動に貢献すれば家賃割引を提供するといった「福利厚生プログラム」を検討している。この新しい世代間共同生活スペースを、既存の高齢者ケアの選択肢に変わる豊かな選択肢として提供しようとしているのだ。

儒教的価値観に根ざしたアジア社会では、子どもが年老いた親の面倒を見て「親孝行」し、身内でサポートするのが基本だという考え方がある。その中では、外部の介護ソリューションは受け入れられにくい。こうした従来の考え方は、社会の変化により徐々に変わりつつあるが、一番の問題は頼れる家族がいない高齢者が、一人で孤独と介護の問題を抱えてしまうことではないだろうか。

住民同士が交流できる環境が整っていることで、多世代に会話が生まれ、コミュニティの絆が深まる。すると、自然に助け合いの精神が育まれる。一人暮らしの孤独な高齢者や、病院ではない環境である程度のケアを要する高齢者にとって、新しいコリビングのスタイルはアクティブな生活を楽しめる一つの理想的な環境になっていくかもしれない。

【参照サイト】Singapore Land Authority
【参照サイト】Singapore’s first intergenerational co-living space to open in 2025
【参照サイト】A smart gym for seniors, vouchers for the young: What intergenerational co-living in Singapore could look like
【関連記事】若者とシニアをつなぐ。LGBTQ+当事者が支え合う、LAの多世代ハウス
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Edited by Megumi

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