ものが壊れたときにどのように対処しているだろうか。新しいものに買い換える、修理して引き続き使う、セカンドハンドショップや第三者に譲る……私たちにはいくつかの選択肢がある。
日本の20~60代を対象にした家電の修理に関する意識調査(※1)では、回答者の9割が「購入した家電を出来るだけ長く使用したい」と考えているものの、実際には4分の1の人が壊れたものを廃棄しているという。できるだけ長くものを使いたいと考えているが、修理方法がわからない、修理するための部品がない、修理に想定以上のお金がかかるなどの理由から、やむなく手放した経験があるという方も多いのではないだろうか。
現在、ものが故障したときに製造メーカーを通さず、消費者自身で修理しようとするムーブメントが広がっている。その波はアメリカにも到達した。2025年2月、米国ウィスコンシン州で農業機械を修理するための権利の法案が提出され、これで米国にある50州すべてで「修理する権利(Right to Repair)」に関する法案が可決、または審議されていることになったのだ。
なぜ修理の権利の議論が進んでいるのか。その背景には、消費者や中小企業などによる、製品修理の自由化を求める動きがあった。
これまで大手製造メーカーが修理に必要な情報や純正部品などを独占していたため、消費者は指定された正規の代理店に修理を依頼する以外に選択肢がほぼなかった。アメリカにはビッグ・テックと呼ばれる大手IT企業の本拠地があり、政治的に強い影響力を持っていることや、EUほどの強い環境規制がなかったことも、急速に修理が広まらなかった理由として挙げられる。その中で、安全性と知的財産の保護を主張するメーカーと、限られた選択肢の中で高額な修理費を支払わざるをえない消費者との間の溝が浮き彫りになり、長年にわたって続いてきた市民からの要請や草の根運動が、ついに法整備の動きとして実を結び始めた。
さらに、修理ができない製品が増え、まだ使用可能なデバイスが廃棄されることで、電子廃棄物(e-waste)が増加している問題も、修理の波を後押しした。2019年には世界で過去最高の5,360万トンの電子廃棄物が発生し、わずか5年の間で21%も増加。さらに2030年までに7,400万トンに達すると予測されている(※2)。修理可能な製品を長く使うことで、環境負荷を減らせるということが消費者の一つのモチベーションにもなっているのだ。
そうした「修理する権利」を求める声に答えるべく、アメリカではMicrosoftやAppleなどといった大手企業が修理マニュアルを適宜公開。これは世界的にも大きな影響を与えることになり、廃棄物の削減やリサイクル市場の成長など環境へのポジティブなインパクトが予想される。地元の修理業者や中小企業のビジネスの成長によって経済や雇用の促進にもなるだろう。
大量生産によって安価でものが手に入る時代で、ものに対する愛着が希薄になりつつある。しかし、日本でも古くから育まれてきた「ものを大切に永く使う」という文化は私たちの心に根強く残っているはずだ。そうした価値観を未来につなげるためには、消費者の意識だけでなく、企業の責任ある製品設計や政府の制度整備も欠かせない。アメリカで急速に進む「修理する権利」をめぐる動きは、スピード感をもって変革を進めるために、企業および政府の働きかけがいかに重要かを示していると言えるだろう。
※1 米国で法案可決の「修理する権利」、日本での発展に全国の20-60代の約6割が期待 家電の修理に関する意識調査
※2 The Global E-waste Monitor2020 – Quantities, flows, and the circular economy potential
【参照サイト】Right to Repair Laws Have Now Been Introduced in All 50 US States
【参照サイト】All 50 States Have Now Introduced Right to Repair Legislation
【参照サイト】The right-to-repair movement is growing as wins stack up
【参照サイト】米国で広がる「修理する権利」
【関連記事】修理する権利(Right to repair)とは・意味
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ドキュメンタリー映画『リペアカフェ』上映プログラム実施中!
IDEAS FOR GOODでは、モノを大切に使い続ける「修理」という行為に焦点を当てたドキュメンタリー映画『リペアカフェ』の上映プログラムを提供しています。使い捨て文化が広がる現代において、「直して使う」という選択肢を見つめ直すことは、私たちの価値観や行動を変える第一歩になるかもしれません。本作品は、壊れたモノを修理しながら、人と人がつながり、持続可能な社会を実現するためのヒントを探る内容となっています。
本ドキュメンタリーは、社内のサステナビリティ意識を高めたい企業や、コミュニケーション活性化を図りたい組織、地域住民の学びの場を提供したい自治体など、さまざまな場面で上映いただけます。修理を通じて人と社会と地球をつなぎ、新たな気づきを得るきっかけづくりにぜひご活用ください。上映に関する詳細やお問い合わせは、こちらの特設ページから!