イギリス、「自然史」を中学の卒業試験科目に導入。学びの場を教室から森へ

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新たな試験科目が、イギリスの学生たちを教室から森へと誘うこととなった。イギリス政府が2025年3月21日、同国内の中等教育修了資格の一つであるGCSE(General Certificate of Secondary Education)の科目として、「自然史(Natural History)」の導入を発表したのだ。

これにより、イギリスの14歳から16歳までの多くの生徒が自然環境や気候危機、持続可能な生活にかかわる科目の全国統一試験を受けることになる。

この導入の背景には、イギリスの自然愛好家たちをはじめとした多くの人たちの、10年以上にわたる活動があった。2011年から、博物学者であり作家のメアリー・コルウェル氏が、GCSEへの「自然史」科目の導入を求めるキャンペーンを主導。同氏は、2021年にケンブリッジ大学出版局のセミナーで、自然とその影響に対する若者の理解の欠如を指摘し、彼らが地元の野生生物について学ぶ野外調査の機会を確保する必要があると述べた(※1)

「自然史のGCSEは、若者たちを周囲の自然界と再び結びつけるでしょう。それは単に魅力的だから、単に精神衛生に良いからというだけでなく、私たち全員が暮らせる世界、活気に満ちた健全な惑星を創るためには、こうした若者たちが必要だからです(セミナーより)」

また、イギリスの認定機関であるOxford Cambridge and RSA(OCR)が、2020年に一般の人々が意見を述べられる公開協議会を開き、「自然史」という科目をどのように定義するか、またどんな内容にすべきかが話し合われた。同年の10月には、そこで得た2,000件以上の回答をもとに、イギリス教育省に改めてGCSEへの「自然史」の導入を求める提案書を提出している(※2)。そして2022年4月に、教育省がその導入計画を承認。2025年、現在の教育大臣であるキャサリン・マッキネル氏が、議会で新たなGCSE科目として「自然史」を発表するに至った。

同国プリマス大学社会学部のアリソン・アンダーソン教授は、今回の導入に対して「新たな中等教育修了資格には、観察・監視・記録・分析など、自然に関わるキャリアを積むための実践的なスキルが含まれるだろう」「喜ばしいニュース」であると述べた。一方で、「気候変動と持続可能性に関するテーマは、科目を限定せず教育カリキュラム全体に組み込む必要がある」と指摘。GCSEはあくまで科目選択制のため、自然史を「選ばない」子どもたちのための自然環境教育の受け皿の必要性を示唆した。

イギリス政府は、2025年後半に「自然史」科目の内容について、全国の若者たちが学び、試されるのに適切な内容かどうかの協議を行う予定だ。同国の独立試験規制当局であるオフクウァル(Ofqual)の承認を得る必要もあるため、ある程度厳格な審査のうえで内容が決められることになる。

「自然史」は一体どのような内容になるのか。日本の最新の学習指導要領(2021年度から実施)においては、中等教育では身近にいる野生生物の観察や、自然体験、博物館・科学学習センターとの連携などが重視されているが(※3)、改めて卒業資格として「自然史」の知識が問われることは2025年現在ではまだない。英国の新たな科目の動向に引き続き注目したい。

※1 Seminar – Exploring nature in education: Developing a Natural History GCSE
※2 GCSE Natural History Consultation – Summary of Findings
※3 中学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説 令和3年8月 一部改訂

【参照サイト】The new Natural History GCSE and how we’re leading the way in climate and sustainability education – your questions answered
【参照サイト】GCSE Natural History Hub
【参照サイト】Department for Education confirms launch of natural history GCSE

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