「最後に星空を見上げた日はいつだろう?」人工的な光が絶え間なく輝き続ける都市で暮らす筆者にとって、暗闇の中で満天の星空を眺めることが、実は容易に得られない貴重な経験であることに気がつく。
過剰、または不要な光による「光害(ひかりがい)」はエネルギーの浪費だけでなく、人間や野生生物の生活リズムの乱れや睡眠障害を引き起こす。また、植物・農作物の生長にも影響を及ぼす場合があるという(※)。特に夜行性の昆虫や動物たちにとって光害は種の存続にも関わる重大な問題だ。
そんな中、夜間の人工光の使用を制限し、本来の夜空を守ることを目指すダークスカイ・ムーブメントが広がりを見せている。米国のNPO・ダークスカイが実施している「国際ダークスカイ・プレイス・プログラム」では、地域コミュニティ、公園、自治体などと協力し、人間と野生生物の両方にとって「暗い場所」を認定し、保護している。認定された場所は2025年4月現在、22カ国200以上にもなる。
そして、このプログラムで認定されたいくつかの場所では、人工的な光が遮断された暗闇の中で夜空を楽しむ「ダークスカイツーリズム」が体験できる。例えば、2019年に国際ダークスカイ・サンクチュアリに認定されたアエハイカラハリ遺産公園。この公園は、南アフリカとボツワナの国境にまたがる大規模な野生生物保護区であるカラハリ国境公園の南側に位置し、宿泊施設のロッジでは、電気が夜間5時間のみ供給され、発電機は午後11時に停止される。屋外照明は低い位置に設置され、屋内からの光の漏れも厳格に管理されている。これだけ万全の体制であっても、天候や月明かりで星空が見えるかは確実ではない。人智の及ばない自然の中で身を委ねることも必要だ。
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ナイトツーリズムの人気の高まりは日本も例外ではない。東京都心から約180キロメートルの位置にある伊豆諸島の神津島は、美しい夜空を守る「ダークスカイ・パーク」として、2020年に東京都で初めて認定された。その背景には素晴らしい夜景を守ろうとする島民たちの努力があった。
神津島では2020年に光害防止条例が施行され、2022年3月末に島内すべての街灯を夜空に光がもれない光害対策型の街灯・防犯灯への改修が完了した。観光協会では2017年から星空ガイドの養成講座を実施、島民ガイドによる星空観賞会も開かれている。
他にも、群馬県利根郡みなかみ町では、例年6月中旬から7月中旬にかけて「月夜野ホタル観賞の夕べ」を開催している。このイベントは、カメラのフラッシュや懐中電灯などの明かりを禁止し、暗闇を保つのが特徴だ。また、ホタルの生息地を守るために地元のボランティアが環境整備や次世代の子どもたちへの環境教育も行なっている。
ダークスカイツーリズムは、無駄な人工光を排除することで私たちの周りの環境への配慮を自然に促し、暗闇の中でじっくりと自分と向き合う時間を提供してくれる。そんな時間が、深い安らぎをもたらし、静かな場所で自然とのつながりを思い出させる。そして、地域における観光の新たな形として、雇用を生み出し、経済にも良い影響を与えていく。ダークスカイツーリズムは、単なる観光にとどまらず、持続可能な新しい旅のあり方を示す流れの起点となるだろう。
【参照サイト】Dark-Sky Tourism: The Travel Niche That’s Reconnecting Us to the Universe
【参照サイト】日本自然保護協会 生き物を苦しめてきた「光害」
【参照サイト】darksky ecotourism
【参照サイト】Carpe Noctem
【参照サイト】神津島まるごとプラネタリウム
【参照サイト】Stargazing haven of Kozushima isle a short hop from central Tokyo
【参照サイト】みなかみ町観光協会 月夜野ホタルの里 ガイドマップ
【参照サイト】群馬県みなかみ町ホームページ 第9章保全と活用
【関連記事】リジェネラティブ・ツーリズムとは・意味
Edited by Megumi