天気が変わりやすいイギリスでは、誰かと居合わせたときまず天気の話をするのが日常の風景だ。それだけ天気は、暮らしに密接で身近な関心事なのだろう。しかし近年、この何気ない話題が、気候変動という切実な問題と結びつくようになってきた。実際、イギリス各地では年間降水量の増加や極端な降雨・洪水が各地で頻発しているのだ(※1)。
特に、スコットランドのグラスゴーは年間170日以上の降雨日を記録する、イギリスで最も雨が多い都市のひとつだ(※2)。雨の多い気候は、都市での移動や公共空間の利用、さらには人々の心身の健康にも大きな影響を及ぼしている(※3)。しかし、これまでの都市計画では、雨を考慮した設計はほとんど取り入れられてこなかった。そこで今、グラスゴーでは「雨と共に生きる」都市を目指した新たな試みが始まっている。
それが、Living with Rain: Planning for Everyday Life in Glasgowという研究プロジェクトだ。このプロジェクトでは、雨を単なる排水や浸水リスクの問題として扱うのではなく、都市に暮らす人々の移動や公共空間での活動など、日常の体験全体に影響を与えるものとして捉え直す。つまり、雨を受け入れながら快適に暮らすための都市デザインを構想しているのだ。
具体的な施策としては、屋根付きの歩道や雨除けのある広場、雨の日でも使えるベンチなど、人々が雨天時でも外出しやすくなるような都市空間の設計が進められている。また、雨具の提供や、シャワー・着替えスペースのある職場づくり、雨天時でも楽しく過ごせる照明やアートの導入なども検討されているという。
グラスゴー市内ではすでに、こうした理念に基づく施策が形となっている。例えば、南部のカーダノルド地区や南東部のクロフトフット地区では、洪水対策と公共空間の改善を両立する取り組みが行われており、地域の安全性や生活環境に対する住民の満足度を高めている。
カーダノルド地区では、従来使われていなかった緑地を活用して、雨水を自然に処理するレインガーデンや、遊歩道、子ども向けの遊具、自転車置き場などが整備された。この取り組みは、自然と都市生活の共生を評価する「Building with Nature賞」を2021年に受賞している(※4)。
また、クロフトフット地区では、地下に雨水貯留タンクのある運動場や、洪水時には一時的に貯水ができる屋外学習スペースなどが整備された。歩行や自転車での移動を促進する施策もあわせて導入され、地域の防災力と移動の利便性を高めている(※5)。
グラスゴーが提案する「雨と共に生きる」都市計画は、これからの気候変動時代において、多くの都市にとって参考になる取り組みだ。雨を避けるのではなく、日常に取り込み、共存するための適応策。それが、未来の都市をつくるカギとなるのかもしれない。
※1 State of the UK Climate Met Office
※2 Location-specific long-term averages Met Office
※3 Mental health and climate change in the UK: call for evidence Gov.uk
※4 City Deal Backed Project Design to Reduce Flood Risk Wins Building with Nature Award Glasgow City Council
※5 Flood Resilience Strategy: case studies Scottish Government
【参照サイト】Living with rain: planning for everyday life in Glasgow
【参照サイト】Glasgow ‘must learn to better live with rain’ and plan around weather
【参照サイト】Glasgow named as Britain’s rainiest city
【関連記事】雨粒の重力をエネルギーに。都市のスキマ空間でも活用できる、次世代発電技術
Edited by Megumi
