牛のげっぷは、地球温暖化に非常に大きな影響を与える。牛などの反芻動物は、「ルーメン」と呼ばれる第一胃で微生物の力を借りて草を分解しており、この過程で発生するメタンは気候変動の主な原因の一つとされている。
メタンは、CO2の20倍以上の温暖化効果を持つ(※1)。また、世界全体で排出されるメタンの約40%が農業由来であり、その多くは牛の消化プロセス(腸内発酵)から発生していると報告されているのだ(※2)。
このような状況に対し、新しいアプローチを提示しているのが、アメリカ・ノースカロライナ州を拠点とするスタートアップ・Hoofprint Biomeだ。同社は、牛のルーメン内のマイクロバイオーム(多様な微生物の集合体)を調整し、メタン生成を担う古細菌の増殖を抑制する飼料添加物を開発した。これによって、牛の消化器内環境を最適化し、げっぷに含まれる温室効果ガスの排出を最大80%まで削減できる可能性があるという(※3)。
この技術は単に温室効果ガスの削減に貢献するだけでなく、畜産業にとっても経済的なメリットがある。従来、牛が食べた飼料の一部は、腸内でメタンを発生させる過程に使われており、牛の体内で有効に利用されるはずだった栄養が一部失われてしまっていた。しかし、Hoofprint Biomeの飼料添加物により、この無駄を抑え、飼料中の栄養をより効率よく成長や乳量に活かせるようになると期待されている。つまり、環境保全と生産性向上を同時に実現できる一石二鳥のソリューションなのだ。
さらに、この製品は化学合成ではなく自然由来のタンパク質を原料としており、動物への負担や副作用のリスクが小さいとされている。また、ルーメン内の微生物環境は牛の代謝や健康状態と密接に関係しているため、この飼料添加物が牛の健康に良い影響をもたらすことも期待されている(※4)。
Hoofprint Biomeは、農家が自分たちの家畜のマイクロバイオームをモニタリングし、最適な飼料改良剤を選択できるサービスも計画中だ。単なる飼料開発にとどまらず、科学技術を活用して持続可能な食料生産体制を築く取り組みは、今後ますます注目を集めそうだ。
※1 メタンとは 温室効果、CO2の20倍超え
※2 Global Methane Assessment (summary for decision makers) UNEP and Climate and Clean Air Coalition
※3 AgriZeroNZ grows stake in US methane mitigator Farmers Weekly
※4 Multi-omics reveals that the rumen microbiome and its metabolome together with the host metabolome contribute to individualized dairy cow performance
【参照サイト】Symbiotic livestock production (n): A mutually beneficial relationship between humans, animals, and the planet.
【参照サイト】Hoofprint Biome boosts cow nutrition while slashing methane burps
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Edited by Megumi