AIと人間の“あいだ”にある可能性。二項対立を超えて

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世界は、AIの「越えてはならない一線」を探っている──アメリカではAIによるカウンセリング禁止の州法が相次ぎ成立し、デンマークではディープフェイク規制の法整備が進むなど、こうした動きは、「危険だから排除する」もしくは「便利だから依存する」という二択に見えるかもしれません。

しかし現実には、AIをめぐる環境はもっと複雑で、揺らぎのあるものです。AIはすでに教育やオフィスに浸透し、私たちの仕事や学びの現場に新しい関係性を生み出しています。その中で、私たちの役割が「生産者」から「検証者」へと変化しつつあることは、今この文章を読んでくださっている多くの方が、日々の業務で実感していることではないでしょうか。

AIが浸透した社会には、便利さと同時に不安も存在します。AIチューターは学習を助けますが、人間的な粘り強さを奪う懸念もある。翻訳やリサーチが効率化する一方で、雇用の不安定化や情報の偏りも深刻です。恩恵とリスクを併せ持つAIと、私たちはどのようにして「ちょうどいい」関係を築けばよいのでしょうか。

ヒントとなるのが、「契約的共同創造(covenantal co-creation)」という考え方です。これは、スウェーデン・ヨーテボリ大学のLeif Eriksson氏をはじめ、AIとの協働を実践する複数の研究者・開発者によって議論されてきました(※1)。人間がAIを完全に支配する操縦者(driver)でも、受け身で依存する乗客(passenger)でもない「第三の関係性」。直感や倫理を持つ人間と、パターン認識に長けたAIが往復的にやりとりすることで、一人では到達できなかった洞察を生み出すとされます。

実際にハーバード・ビジネス・スクールの研究では、人間とAIが協力して出した解決策の方が、実行可能性や環境的価値の点で高く評価されました(※2)。つまり「人間かAIか」という二項対立ではなく、両者の強みを掛け合わせたときにこそ、新しい価値が生み出されるのです。

Image via Shutterstock

興味深いのは、この考え方の根底には、「知性は一人の頭の中ではなく、“あいだ”に生まれる」という視点があること。エンジニアのKelly Heaton氏は、人間とAIの共創プロジェクトの中でこれを「関係性知能」と呼んでいます(※3)

これは、計算能力を重んじてきた西洋的な知能観とは異なり、知性は他者や自然との関わり合いの中で育まれるものとされます。北米の先住民ラコタの言葉「ミタクエ・オヤシン(我がすべての関係者へ)」もまた、動物や植物、大地や水を含めたあらゆるつながりの網の目に知恵が宿るという叡智を示しています。人とAIの対話も、その“あいだ”に新しい可能性を生み出す営みと捉えられるのです。

では、AIと人間の関係においての「ちょうどいい距離感」は、実際にどう生み出せるでしょうか。AIに特化した教育プラットフォームSectionのCEO・Greg Shove氏のコラム記事で印象的だった三つのポイントを紹介します(※4)。第一に、AIの出力は常に批判的に受けとめ、最終的な決定の責任は人間が負うこと。第二に、やりとりを対話的に保ち、「なぜそう考えるのか」「他に選択肢はないか」と問いを重ねること。第三に、用途を明確に限定し、越えてはならない領域をきちんと線引きすることです。

恐れて退くことでも、安易に委ねることでもなく、AIとの「ちょうどいい」関係をどう設計するか。その探究こそが、これから重要になっていくのかもしれません。

IDEAS FOR GOODもまた、「白か黒か」と単純に結論を出すのではなく、その間に広がるリアルを見つめながら、危機と希望をつなぐ仲介者のような存在でありたいと考えています。

ジャーナリズムの役割が、単なる事実の伝達ではなく、社会に対話の場をひらき、多様な声を交差させることにあるのだとするのなら。AIは、記事を代わりに書く存在ではなく、そのプロセスを豊かにする「対話相手」として共存できるはず。私たち自身も、AIとの関わりを探りながら、新しい問いを社会に投げかけ続けたいと考えています。

そんな「新しいメディアのかたち」をつくる挑戦の第一歩として、近くIDEAS FOR GOODはクラウドファンディングを始める予定です。編集部一同、ドキドキしながら準備をしている最中ではありますが、この旅路を一緒に見守り、楽しみにしていただけたら、とても心強く思います。

※1 Neither driver, nor passenger — covenantal co-creator
※2 The Creative Edge: How Human-AI Collaboration is Reshaping Problem-Solving
※3 The Coherence Code
※4 Why AI is making us lose our minds (and not in the way you’d think)

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