本コラムは、2025年12月11日にIDEAS FOR GOODのニュースレター(毎週月曜・木曜配信)で配信されました。ニュースレター(無料)にご登録いただくと、最新のコラムや特集記事をいち早くご覧いただけます。
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2025年の日本の「気候」を振り返ってみると、夏は昨年の記録を大幅に上回り、観測史上最も高温となった。また、その後の秋は一瞬で過ぎ去っていったように思う。実際に、夏の暑さが10月下旬まで長引き、11月になると一気に寒気が押し寄せ冬が到来したと、複数の気象メディアが報じている。
こうした不自然な季節のありように、気候変動への危機感を肌で感じている人も多いはず。来年以降も同じような状況が続くと予想される中、メディアによる報道は、気候変動の何をどのように伝えていくべきなのだろうか。
一般社団法人Media is Hopeが2025年2月〜4月に行った調査では、95%以上の人が「気候変動報道を増やした方が良い」と回答し、この分野の報道に力を入れる必要があることが示唆された。
その中でも目立ったのが、科学的根拠に基づいた正確な情報提供や、客観的な報道への要求だ。SNSやワイドショーで誤った情報が流れやすい今だからこそ、専門家の意見やデータを用い、気候変動とその影響について深掘りするような質の高い報道が求められているのだ。
一方で、気候変動というテーマを前にしたとき、「データ」や「客観性」だけでは、本当に大切なことが伝えきれないのではないか、というジレンマも生まれている。
もちろん、「2100年までに平均気温が〇℃上昇する」「CO2排出量を〇トン減らす必要がある」といった科学的な事実が正しく共有されることは言うまでもなく重要だ。しかし、そうした数字は実際の自分の生活や行動の変化には結びつきにくいものだ。
では、この自分ごとにしにくい危機を、どうすれば人々の心に届く形で伝えられるのか。その一つの可能性として今注目したいのが、「身体化された気候ジャーナリズム(Embodied Climate Journalism)」という新たな報道のあり方だ。
カナダ・カールトン大学の研究者が2025年11月に発表した論文で提唱するこの報道手法は、ジャーナリストが自らの身体を用い、感じたことを感情や主観で伝えるという、これまでのジャーナリズムのあり方とは一線を画すもの。論文では、2019年から2024年にかけてカナダで行われた51の気候変動報道を分析したうえで、そうした伝え方が気候変動問題の“自分ごと化”に大いに貢献し得ると結論づけている。
論文の中でその象徴的な事例として挙げられているのが、カナダの新聞トロント・スター紙のマルコ・チョウン・オベッド記者による熱波の報道だ。
数年前から深刻化するモントリオールの熱波について伝えるこの報道では、記者自身が熱波のピーク時を再現した環境制御室に入り、その過酷さを体感。体に取り付けたセンサーから得られた心拍数や体温の変化といった科学的なデータと共に、「サウナを想像していたが、もっとじっくりと焼かれるようなものだった」「片付けを終えたとき、めまいを感じた」といった自らの身体的な体験を生々しく記事にした。
これはまさに、ジャーナリストが自らの身体を、気候変動の脅威を測定し伝えるための“センサー”として用いた実践例と言える。

出典:LIFE AND DEATH UNDER THE DOME
この「身体化された気候ジャーナリズム」をもう一歩踏み込んで考えてみると、ジャーナリストが自らの身体をセンサーとして用いるだけではなく、読者が自らの身体で直接気候変動を感じ取れるような体験を届けることも、これからのメディアが担うべき役割と言えるかもしれない。
例えば、「サステナブル・リスニング」というドイツのプロジェクトでは、気候変動の影響で生物が絶滅の危機に瀕する海や森の様子を音楽で表現し、科学的なレクチャーと共に届けることで問題意識を感情的に喚起した。アルゼンチンでは、深刻化する森林火災を啓発しようと国際NGOが「山火事の匂いがする芳香剤」を作ったという事例もある。
こうした取り組みは、科学的なデータを用いながらも、それを「痛み」や「喪失感」として翻訳し、私たちの聴覚や嗅覚といったより本能的な感覚に直接訴えかける試みだ。
私たちIDEAS FOR GOODが目指しているのも、まさにそのような身体感覚を伴うメディアのあり方だ。その実験として、これまでにも社会課題の現場を訪れその複雑さや深刻さを肌で感じたり、また、ソリューションの現場を訪ねることで課題解決の先にある楽しさや希望を体験するツアーやイベント作りに挑戦してきた。これは、頭で「理解する」だけでなく、身体で「実感する」こと。それこそが、人の心を動かし、行動へとつなげる最も確かな道だと信じているからだ。

IDEAS FOR GOODで実施した1Dayツアーのなかでも気候変動の影響を体感する出来事が。群馬県・安中市の耕作放棄地を活用して育てた大豆を見学してきた際、「夏の猛暑により、通常の半分以下の背丈までしか伸びなかった」というお話を伺った。
また、AIが生成する情報に溢れ、何が真実かを見極めることがますます困難になる今、誰かが身体を張って得た一次情報や自分自身で感じた「主観的な実感」こそ、最も信頼できる確かな情報として、逆説的にその価値を高めていくのではないかとも考えている。
客観的なデータという「骨格」に、身体的な経験という「血肉」をまとわせること。その両輪があって初めて、気候変動という未曾有の危機を自分たちの物語として理解し、未来を変えるための次の一歩を踏み出せるのではないだろうか。
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