「もっと時間があれば」は個人の問題ではない。社会の指標をお金から“時間”に変えたら

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「もっと時間があれば」と思いながら、一日が終わる。

忙しさに追われ、選択肢そのものが限られた生活のなかで、私たちは本当に「自由に」行動を選べているのだろうか。環境に配慮したい、もっと穏やかに生きたいと思っても、それを実行できる「時間」がなければ実現できない。

それでも社会は、私たちの豊かさを「どれだけ稼いだか」「どれだけ消費したか」で測り続けている。

ではもし、社会のものさしが、お金ではなく「時間」になったとしたら──その問いに、データから答えようとした研究がある。2025年8月に公開された本論文は、時間の使い方次第で、より少ない資源消費で、より高いウェルビーイングを得られる可能性を示した。

研究で使用されたのは、フィンランド、フランス、英国の以下の3つのデータ。

  • 人々が何に時間を使っているか
  • その時間をどれほど「楽しい」と感じているか
  • その活動がどれほどの温室効果ガス(GHG)を排出しているか

これらをベースに、2050年における3つの「時間利用シナリオ」を仮説として、時間の使い方とウェルビーイングおよび環境負荷の関係性が調査された。

  • グッドライフ(Good Life)シナリオ:労働時間を減らし、余暇、ボランティア、ケア活動の時間を増やす。移動はすべて公共交通や徒歩・自転車。運動や読書、人との交流を重視する
  • ケア責任(Caring Responsibilities)シナリオ:子どもや要介護者など、扶養家族のケアに多くの時間を費やす。余暇は減少し、自家用車などの高排出な移動手段に頼らざるを得なくなる
  • 個人主義(Individualist)シナリオ:労働集約的なライフスタイルで、睡眠時間を削り、余暇の多くをスクリーンタイムに費やす。移動は自家用車に依存し、ケア活動には時間を使わない

すると3つのシナリオのうち「Good Life シナリオ」は、他の2つに比べて幸福度が高く、排出量も低く抑えられた。

Image via Shutterstock

しかし、その削減のインパクトは「十分ではない」ことも明らかにされた。個人が「Good Life」な時間の使い方をしても、排出量はプラネタリー・バウンダリー(1人あたり年間1.61トン相当のCO2)を大幅に超えるという。

つまり、社会のインフラや生産システム自体が大量消費を前提とする仕組みのままでは、個人の努力は構造によって相殺されてしまう。先進国の排出量をプラネタリー・バウンダリー内に収めつつウェルビーイングを実現するには、時間の使い方以前に、システム変革が欠かせない。

この論文はもう一歩踏み込み、少し議論を前に進めるヒントを示してくれている。

本論文では、「時間」は個人の努力や意志だけで自由に使えるものではない、と捉えられている。私たちの時間は働き方、家族のあり方、交通やケアの制度など社会システムによって形づくられるという考え方「機能的時間利用説(Functional Time Use Theory)」に基づき、行動(時間の使い方)を変えるには、時間を規定する社会的システムを変えることが必要だとされている。

この概念に従い、論文は既存のシステムに対して以下の3つの変革を提案している。

  1. 労働時間を短縮する。社会全体で労働時間の短縮を推進し、人々がコミュニティ活動や時間をかけた低炭素な余暇を楽しめるようにする
  2. ただし、余暇の時間がケアワークに消化していくことがないよう、公的な育児・介護サービスを充実させる。ケアを個人の負担にするのではなく社会全体で分かち合う
  3. 公共交通とアクティブトラベルを推進する。誰もが利用できる高質で安価な公共交通網と、徒歩や自転車などの身体活動を伴う移動手段のためのインフラを整備する

このように、「時間の使い方」から社会の仕組み・行動様式を変えていこうとする動きは強まっている。スペインでは、2025年2月から給与を維持したまま、法定の労働基準時間を週37.5時間に短縮する法案が議論されているところだ(可決に進んでいたものの同年9月に議会が否決したためまだ着地点は不透明)。同国バルセロナでは、時間に対する権利(Right to Time)を推進する「Time Use Initiative」が、都市政策として時間の再配分を試みている。

もし社会が、私たちの時間を尊重することを指標にしたなら。そのとき、豊かさの定義はお金を稼ぐ速度ではなく「どんな時間を生きられているか」へ変わり始め、個々人が「時間をデザインできる」ことを前提にした社会システムへ向かうだろう。それは、ウェルビーイング政策であり、環境政策であり、社会として生き方そのものを問い直す選択でもあるのだ。

あなたは今、どれくらい自分の意思にもとづいて「時間をデザインできる」環境にいるだろうか。「もっと時間があれば」と願う声は個人の弱さではなく、社会の設計に対する、まっとうな問いに繋がるのかもしれない。

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