「大黒柱として家族を支えるべき」「弱音を吐いてはいけない」「涙を流してはいけない」──「男性」にまつわる多くの規範に、息苦しさを感じたことはないだろうか。
特に「子育て」という行事は、母親にとっても父親にとっても大きな変化を強いるものだ。環境が変わる中で、多くの父親たちが自らの感情を抑え込み、“強さ”を演じ続けてきた。しかし、そのことに限界を感じ、産後うつを経験する男性も多い。国立成育医療研究センターの調査によると、日本で1歳未満の子どもがいる父親の11%が産後うつ(メンタル不調)のリスクがあり、これは母親の割合とほぼ同じ水準だという(※)。
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アメリカのロサンゼルスで今、そんな固定観念を少しずつ揺るがす小さなコミュニティが生まれている。その名も「Dads Coffee Club(ダッズコーヒークラブ)」。
ダッズコーヒークラブは、二人の娘を育てるロン・ホールデン・ジュニア氏が始めた集まりだ。母親向けのクラスや支援は豊富にある一方、父親には似たような場が見当たらない。その気づきから、彼はカフェで父親と子どもが自由に集える時間をつくった。
そこにルールや議題はない。ただ、コーヒーを片手に近況を語り合い、子どもが店内を走り回るのを見守る。育児の疲れも、仕事への葛藤も、ここでは誰かと共有できる。完璧な父親ではなく、「そのままの自分」でいられるのだという。
活動は少しずつ街へ広がっている。子どもと一緒に美術館を訪れたり、公園でヨガをしたり、日常のなかで心を整える時間を持つ。これらの実践の中心にあるのは、「父親が何かを“学ぶ”場所」ではなく、「父親が安心して“ほどける”場所」をつくるという発想だ。社会が与えてきた「男性性」の型を、脱ぎ捨てること。その過程そのものが、次の世代へのメッセージになっている。
こうした取り組みの特徴は、制度や大きな仕組みに頼らず、身近な場所から始まっている点にある。カフェ、ギャラリー、ゴルフ場といった日常の空間を「ケアの場」に変える。強さとは何か、支えるとはどういうことか。従来の「男らしさ」を越えて、その定義を更新しているようにも見える。
男性の生き方や働き方が問い直されている今、日本でもこの流れは決して他人事ではない。父親が自らの感情を言葉にし、誰かと共有できる社会は、きっと家族にもやさしい。ロサンゼルスから始まったこの小さな輪は、父親が弱さを隠さなくてもいい社会へ向けた第一歩になっていくだろう。
【参照サイト】Dads need love, too: the men creating ‘a vulnerable space’ to be with their kids, and each other
【参照サイト】Dads Coffee Club Instagram
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