「男らしさ」はどこから来た?どう乗り越える?【みんなに関わる「男性性」のはなし。イベントレポート】

Browse By

「男の子なんだからしっかりしなさい」「そんなこと言って、男らしくないな」……そんな言動に違和感を覚えたことはないでしょうか?男らしさと女らしさ、いつの間にか与えられていた社会的役割。それぞれの性は、歴史背景、教育、メディア、社会環境など、さまざまなものによって育まれてきています。

今回とくに「男性性」を理解する機会として、IDEAS FOR GOODは学びのコミュニティACT SDGsとの共同イベント『私たちみんなにかかわる “男性性” のはなし。成り立ちとそこにある問題とは?』を9月25日(金)夜にオンライン開催しました。

ゲストは男性学を専門に研究されている、関西大学の多賀太(たが ふとし)先生。「男性性」の成り立ちを紐解くところから現在のジェンダー問題について考え、社会に広がる「男らしさ」は、一体どうやってできたのか、私たちの生活の中でどのような影響を及ぼしているのか、参加者の皆さんとともに考えました。今回はその様子をレポートしていきます!

登壇者

多賀太さん(関西大学教授/ホワイトリボンキャンペーン・ジャパン共同代表)

専門は、教育社会学、男性学。1990年代から男性の問題解決や 生き方の問い直しに取り組む「メンズリブ」の市民活動に参加。 2016年、女性に対する暴力防止の啓発に男性主体で取り組む「 一般社団法人ホワイトリボンキャンペーン・ジャパン」 を設立し共同代表に就任。主な役職に、 公益財団法人日本女性学習財団評議員、 NPO法人デートDV防止全国ネットワーク理事、京都市・ 奈良県男女共同参画審議会委員など。主な著書に『男子問題の時代?』(学文社)、『男性の非暴力宣言』( 岩波書店、共著)、『揺らぐサラリーマン生活』(ミネルヴァ書房、編著)など

佐藤暁子さん(ことのは総合法律事務所 弁護士)

上智大学法学部国際関係法学科、一橋大学法科大学院卒業。International Institute of Social Studies(オランダ・ハーグ)開発学修士号(人権専攻)取得。2010年、名古屋大学日本法教育研究センター在カンボジアにて日本法の非常勤講師。2017年、バンコクにある国連開発計画アジア・太平洋地域事務所ガバナンス・平和構築チームにてビジネスと人権プロジェクトに従事。

2018年より日弁連国際室嘱託、同国際人権問題委員会幹事。認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウのメンバーとして、カンボジアにおけるビジネスと人権に関する調査に参加。バンコクのAsia Centreフェロー。人権デュー・デリジェンスや東南アジアにおけるステークホルダー・エンゲージメントのコーディネーターなどを通じ、責任あるビジネスに関するアドバイスを行う。ウェブサイト:佐藤暁子

ジェンダーとSDGs

最初に今回のイベントの前提として、ジェンダーとSDGsの関連が説明されました。SDGsの前身であるMDGsが採択されたのが2000年。MDGsの中には「ジェンダー平等の推進と女性の地位向上」が組み込まれました。課題も多く残る中、2015年に採択されたSDGsで「ジェンダー平等を実現しよう」という項目が引き継がれました。開発途上国ではジェンダーによる教育機会の不平等などがいまもなお根深い問題として残っています。

それでは、日本の状況はどうでしょうか。日本はジェンダー平等達成度ランキング153ヵ国中121位にランクインしており、特に政治・経済分野などにおけるジェンダー不平等が低い評価のもとになっています。SDGsの17の項目のなかでも「ジェンダー平等を実現しよう」という課題が日本社会に重くのしかかっていることがわかります。

【第一部】「男らしさ」はどうやってできたのか――歴史から紐解く「男性性」

第一部ではゲストの多賀太先生より、「男性性」が形成された歴史についてレクチャーをいただきました。

多賀先生

レクチャーの様子

ジェンダー平等と男性

まず「男性性」とは、わかりやすい言葉で言うと「男らしさ」のことを指します。英語で言うと「masculinity」、それは一様ではないことから「masculinities」と複数形で表現されることもあります。また、様々な「男らしさ」の中にも序列があり、優位にある「男らしさ」は「hegemonic masculity(覇権的男性性)」と表現されることもあります。今回はそういった「男らしさ」がどのようにつくられるか、「男らしさ」はどのように男たちを苦しめてきたのかをみていきます。

ジェンダーというと、ついつい女性の抱える問題に注目が集まりますが、ジェンダーは男性にとっても重要な問題です。男性がジェンダーの問題を考える意義は二つあります。一つ目は「女性の地位向上と人権保障」のため、そしてもう一つは「男性自身の生きづらさ解消」のためです。社会の中で、男性が女性より優位な立場にいることは往々にしてあり、そのこと自体が問題視されてきたわけですが、そうした中でも「男らしさ」に縛られて苦しんできた男性たちもいるのです。

時代によって異なる「男らしさ」

長い歴史のなかで固定されつつある男のイメージといえば、兵士や戦士などの「戦う男」。アニメのなかでも、CMなどでも「戦う男」という男らしさが刷り込まれています。それではいつの時代も「戦う男」が男の理想像だったのでしょうか?

man

Image via Unsplash

実は「男らしさ」と一口に言っても、時代によってその内容は異なります。貴族が支配した平安時代は、支配の正統性が「高貴であること」でした。『伊勢物語』や『源氏物語』にあるように、当時地位の高い男は戦わず、折に触れて深く感動し、泣く様子を歌にしていました。続く鎌倉時代から江戸時代には、武士による支配へと切り替わり、支配の正統性が「武力」になります。その中で「戦う男」「泣かない男」へと賛美が集まるようになります。

明治時代以降、日本で富国強兵策がとられるようになると、男子は徴兵検査を受けるようになり、兵隊こそが男子の理想とされるようになります。戦時中は、相手国の女性を性的に搾取するいわゆる「戦時性暴力」がふるわれました。これは相手国の男性に「自国の女性を守れなかった」というダメージを与えるため、各国で戦略的に行われたことでもあります。こうして有事の際は「暴力」を通じても「男らしさ」が強化されていきました。

そして、戦後復興期には「経済戦争」という言葉が使われるようになり、男は「企業戦士」として国のため、会社のため、家族のために、命がけで働くことになります。このように時代によって、求められる「男らしさ」は変化してきたのです。

ニュージーランドで行われた、国家による「男らしさ」のコントロール

soldier

Image via Unsplash

「男らしさ」が時代の政治・経済状況によって左右された例は、日本以外でも見られます。たとえば、イギリスはニュージーランドを植民地化する過程で「男らしさ」を巧みに利用してきました。

植民地時代には「荒くれ男」を男らしさとして定義し、彼らを入植させ、積極的な植民地開拓を進めます。しかし開拓が進み、ある程度社会が落ち着いてくると、社会秩序が乱れないよう「既婚男性」を入植させ、夫婦単位の農業を通じた「男らしさ」を浸透させます。そして、イギリスの植民地戦争や両大戦が勃発すると、暴力的な男らしさが推奨されるようになり、彼らはイギリス兵として戦地の最前線に送られるようになるのです。そして戦後は、ラグビーなどのスポーツを通じて、「男らしさ」を発露させています。

このように、国家が巧妙に男らしさをコントロールしてきた例も存在します。

男の生きづらさの正体は?

disappointed

Image via Unsplash

男性をジェンダー問題の当事者として捉えるための視点として、以下の三つのことが挙げられます。

一つ目は、女性問題の原因として男性が存在するということです。配偶者間暴力の加害者の大半が男性で、指導的地位・民間企業の管理職のポストも依然として男性が高い割合を占めています。また2018年には、医学部で男性優遇の不正入試が行われるなどの事件もありました。これらの問題は女性だけで解決することはできず、男性の側にも変化が求められることです。

二つ目は「男らしさ」が男性に生きづらさをもたらすということです。内閣府の調査によると、「幸せである」と感じる男性は女性よりも少ないことがわかっています。また、男性の自殺者は女性の二倍以上であるとのデータもあります。(※新型コロナの影響により2020年のデータは異なります。)その原因は一概には言えませんが、「女性に負けてはならない」「家族を養えてこそ一人前の男」「男は弱音を吐くな」などの「男らしさ」が圧力となり、そうした規範を体現できない人たちが、規範と実態とのギャップに苦しんでいるということが考えられます。

三つ目は男性の中にも多様性があり、男性優遇の社会から受ける恩恵も一様ではないということです。日々生きづらさを感じながら恩恵をほとんど受けていない人もいれば、それほど苦労せずに恩恵を受けている人もいます。また、男性といっても社会的階層、人種・エスニシティ、性的指向などは人によって様々で、それらが不平等につながっていることもあります。

ジェンダー平等を実現することは女性だけを苦しさから救うことだと思われがちですが、ジェンダー平等の実現は男性の生きづらさを解消することにもつながります。女性の生きづらさの解消と、男性の生きづらさの解消はトレードオフの関係ではありません。両者がより生き生きと過ごすために、ともにジェンダー平等の実現を目指していく必要があるのです。

【第二部】「男らしさ」はどうやって保たれるのか――私たちの日常に潜むジェンダーバイアス

第二部ではブレイクアウトルームに分かれ、私たちの身の回りに「男らしさ」はどのように存在するのか、私たちはどうすればそれを乗り越えたコミュニケーションが取れるのか、参加者同士で話し合いました。

social gathering

Image via Unsplash

参加者のみなさんが日常的に感じている「男らしさ」の影響は以下のようなものでした。またそれが引き起こされ、強められる原因についても考えました。中にはそうした「らしさ」を乗り越えようと、実際にアクションを起こしている方も。その方法も紹介します。

「男らしさ」が強調されていると感じる場面
  • 「女性活躍」などと謳っているものの、働く現場では女性が要職につかず、結局男性の占める割合が高い。
  • 「男性がおごる」ことが普通になっている。中高生・大学生は男女で所得に大きな格差がないにも関わらず、なぜか男性が全額負担することが多い。純粋な優しさでやっている?それともおごることで優位性を保とうとしている?
  • 「〇〇だぜ」「〇〇なのかしら」など男言葉と女言葉の違いに違和感を覚える。
  • レディーファーストの文化に違和感を覚える。人間として優しくするのはいいが、女性が守られて当たり前という文化はおかしい。
  • 「姿勢」の規範にとらわれている。電車で男性は脚を広げて、女性は閉じているなど。
  • 料理の取り分けは女性が行い、男性が取り分けられるのを待っているという規範がある。
  • 「ものごとを決めるのは男性」と言わんばかりの、男性ばかりの国会の様子が気になる。
「男らしさ」助長するもの
  • 子供の頃に見る絵本が、価値観の形成に大きく影響している。勇敢な主人公は男の子で、お母さんが出てくるものが多い。お母さんは、キッチンで料理をしている。
  • 高校生はテレビやネットで配信されるドラマなどをみて「女性におごる」「女性を守る」などの「男らしさ」を覚えていると思う。
  • 「もっと男らしくしなさい」と親に言われたことがある。家庭内の教育にも影響を受けている。
「男性性」を乗り越えるためのコミュニケーション
  • 役所にて、「妻」「夫」ではなく、「パートナー」という名称を使うようにしている。
  • 上智大学がミスコン・ミスターコンを廃止するなど、容姿でその人の魅力を決めつけることへの抵抗も教育現場で現れている。
  • 自分らしさ、自分を出すことを躊躇しない。まわりの個性を否定せず、受け止める姿勢に転換することが大切。
  • 教育から取り掛かる必要がある。学校でも制服などが男女別に分かれていて、「男らしさ」が刷り込まれている場面が多い。それぞれが選べるようにすべき。
  • 前に出るリーダーの影響が大きい。首相が女性に変われば状況は変わりそう。

編集後記

参加者の方の意見にもあるように、「男らしさ」が刷り込まれる場面は特定の場所だけではありません。家庭、職場、学校、友人・恋人関係など、あらゆる場所で気づかぬうちに私たちは「男らしさ」「女らしさ」に取り込まれています。「状況は変わらない」「私は意識しているから関係ない」と問題から距離を置くのではなく、あらゆる人が「らしさ」の強制から解放される、柔らかなコミュニケーションを意識していくと良いでしょう。

またワークショップを終えたあと、登壇者の多賀先生からは以下のようなコメントがありました。

「性のあり方は多様なんだから、一人ひとりがジェンダーフリーになればそれでいいんじゃない?」「男女で分けて考えることなんてもう必要ないんじゃない?」という意見も出てくるかもしれません。しかしそのことが、かえって現状ある男女間の差別や格差を見えにくくしてしまう側面もあります。問題を多角的に捉えて、男女間の格差を解消していくことと、一人ひとりが固定的な「女らしさ」「男らしさ」に縛られずに生きていけるようにすること、その両方にバランスよく取り組んでいく必要があると思います。

私たちには、未来志向になるのと同時に、過去から尾を引いている深い問題とその背景に向き合い、自分自身の中にある意識の隔たりにも向き合うことが求められます。こうしたジェンダー問題について、IDEAS FOR GOODは引き続き発信を行っていく予定です。今後もみなさんのレスポンスやイベント参加をお待ちしております!

FacebookTwitter