「命をいただく」を見つめ直す日。外房の猟師と歩くジビエの現場から

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本コラムは、2025年11月28日にIDEAS FOR GOODのニュースレター(毎週月曜・木曜配信)で配信されました。ニュースレター(無料)にご登録いただくと、最新のコラムや特集記事をいち早くご覧いただけます。

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IDEAS FOR GOODは、記事での発信以外にも、対面で直接実践者の方の話を伺ったり手足を動かして五感を使って体感したりする体験型のイベント「Experience for Good」を企画している。その一つ、2025年9月から開催している「食」をめぐる全6回のシリーズ【あなたの「おいしい」が続く値段って?~作り手との対話から、食の“価値”を問い直す旅~】では、未来の食をつくるさまざまな実践者や生産現場を訪ねている。

その第4回目として2025年11月下旬、千葉・外房エリアで一次生産の現場をめぐるツアーを実施。野菜や酒、養蜂、米、酪農など多様な現場を訪れた。そのなかで、今回焦点を当てるのが「ジビエ」の話だ。

※本記事では、ジビエを肯定も否定もせず、「こうした現場の声や葛藤もある」という一つの視点としてお伝えする。

昨今、クマが人里に現れ、人が被害に遭うニュースを頻繁に見聞きするようになった。人と野生動物の生息域の境界線が曖昧になっている今、クマ以外にも多くの野生動物たちが、人間が暮らす場所に出没し、ときに田畑に侵入し、人間の生活に影響を及ぼしている。そうした野生動物とどのように共生していけるのか、どう向き合っていくかは、今後大きなテーマになるだろう。

そんななか、今回イベントでお話を伺ったのは、房総エリアでよく出没するイノシシや外来種のキョン(シカの一種)を捕獲・解体し、ジビエとして販売している猟師の吉野さん。自らわなを仕掛けて仕留めるけれど、動物が好きだという彼は、日々、生命と向き合いながらさまざまなことを感じ、葛藤していた。猟師として経済的に自立して生きていく難しさ、猟師の担い手が少なく捕獲しても多くが廃棄されてしまう実情など、リアルな課題を話してくれた。

イノシシ

そうした話のなかで、今回の企画テーマである私たちの食との向き合い方、「食べ方」について、吉野さんが残した言葉が忘れられない。今はほとんどの人が、スーパーに並ぶ肉を手にし、調理する。動物の息の根が止まった瞬間や、食べられる状態に捌かれていく様子を目にすることはほとんどない。だからこそ、その光景を見ることに抵抗感を覚える人も少なくないだろう。実際にSNSなどでは、そうした衝撃的な写真や映像をアップすると削除されることもあるし、猟師の人たちもお客さんとのコミュニケーションするときにも気を付けるようにしていると言っていた。だけど、あるとき吉野さんは、ふと、こう思ったと言うのだ。

「僕たちは、日頃から捌いているので慣れているけれど、他の人たちはそうじゃない。僕たちが特殊なのだと思っていました。でも、あるとき思ったんです。特殊なのは、生死の現場から遠ざかってしまった多くの現代人の方なんじゃないかと。かつて狩猟民族だった私たちは、今や“残酷な”姿を見ることなく食べている。その結果、多くの人が生や死を感じにくくなってしまっているのではないか」

ジビエ串の写真

そうした問いを投げかけながら、吉野さんは「食べる」という行為についてこう続けた。

「肉だから魚だから特別に大事に食べる、ということはありません。野菜にもお米にもすべてに生命がある。どれも等しくありがたく頂きます。何を食べるにしても、感謝の気持ちは大前提としてあるべきだと思っています」それから、吉野さんは、「美味しいからジビエを食べる」という空気が広まってほしいと言った。

「せっかく命を落としたイノシシの肉だから食べないと、という気持ちだと、ずっと食べ続けることは難しいと思います。でも、僕が初めてイノシシを食べて美味しくて感動したように、『美味しい』から入ることで、結果的により多くの動物たちが廃棄されずに流通していくことに繋がると思うんです」

その後、参加者皆で、屋外で実際に罠を仕掛ける体験をさせてもらった。動物好きだからこそ、日々思い悩みながら、人と動物がどうしたら良い関係でいられるか考えて過ごしている。「動物の命と向き合っているときは、新たな気付きや学びと自問自答の連続だ」と吉野さんは口にしていた。

罠の仕掛け体験の様子

罠の仕掛け体験の様子

ジビエや、いわゆる“害獣”の話題は、人によって受け止め方が大きく分かれ、センシティブなトピックとされる。だが、きっとこれは単純に白黒つけられることではない。人間の過度な開発により進む環境破壊などさまざまな問題が絡み合う今、「ジビエを食べるべきかどうか」ではなく、「自分は、どのように命と向き合い、何を選びたいのか」を、それぞれが自分なりに考えてみる。いまは、そんな問いを手元に置いてみるタイミングではないだろうか。

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