格差と環境問題の解決には「節制」が不可欠だ。トマ・ピケティらが示す未来シナリオ

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もっと経済が成長すれば、格差は小さくなり、新たな技術が気候変動を解決する──この未来予想は、今や楽観的すぎるかもしれない。

2026年2月にフランスの世界不平等研究所が公開した研究が、話題を呼んだ。経済学者のトマ・ピケティ氏を含む研究チームによるワーキングペーパー「Prosperity Within Limits? Planetary Habitability, Global Convergence and Structural Transformation, 2026-2100(限界内での繁栄?惑星の居住可能性、グローバルな収束、および構造的転換(2026-2100))」だ。ピケティ氏は世界で注目を集めた著書『21世紀の資本』で知られる。

これは、国家間の経済格差是正と、気温上昇を2度未満に抑えるという気候目標がいかにして両立可能かという問いに挑んだ研究。その分析によれば、2100年までに世界のすべての国が現在の富裕国レベル(1人当たりGDPが6万ユーロ/約1,100万円)に到達することは可能である。

ただし、気候目標も同時に達成するには、脱炭素化だけでは不十分であり、経済のマテリアルフットプリント(天然資源の消費量)を抜本的に削減する「節制(Sobriety)」に向けた構造的な転換が不可欠だと結論づけたのだ。具体的には、次の3つの変化が必要であるとした。

1. 労働時間の劇的な削減:世界平均の年間労働時間を現在の約2100時間から、2100年には1000時間まで半減させる(例:週25時間勤務を40週間と、12週間の有給休暇)。これにより、マテリアルフットプリントを削減できる。

2. 非物質的な産業セクターの重視:消費と投資の主要対象を、教育、保健、文化といった環境負荷の低い非物質的な産業セクターへと大きくシフトさせる。

3. 食習慣と土地利用の変革:赤肉消費を大幅に削減するとともに、2030年に森林破壊を完全に禁止し、1900年時点のレベルまで森林を再生。不確実な炭素回収技術には依存せず、自然な炭素吸収を最大化する。

このワーキングペーパーの特に意義深い点は、ピケティ氏をはじめとする著者らは、いわゆる「脱成長」の研究者ではないことだ。彼らは脱成長に焦点を当てて研究を始めたのではなく、世界の格差是正と地球環境に向き合った結果、導き出された処方箋が、労働時間の減少、物質的消費の抑制、非物質的サービスの拡大という、まさに脱成長論の主張する政策を支持する形となった。

その脱成長論を牽引する経済学者の一人、ティモシー・パリック氏は、スイスでの講演でこう語っている。

自然環境をめぐる移行は、さまざまな色のルービックキューブのようです。一つの色を揃えること、つまり一つを『解決』することは子どもでもできますが、ほかの色を揃えようとすると最初の色をぐちゃぐちゃにしてしまう(中略)だから私たちには、構造的な移行のビジョンが必要なのです。

Prosperity Beyond Capitalism — Timothée Parrique at the Swiss Impact Forum|YouTube

この言葉が示すように、脱炭素化という「一つの色」だけを注視すれば、新たな過剰採掘を引き起こし、生態系の破壊や新たな格差を生み出して「ほかの色」を崩す危険性がある。

ピケティ氏らの研究が提示した未来のシナリオは、まさにこの複雑なルービックキューブを解くための包括的なビジョンの一つとなるだろう。決して労働や経済活動が悪だというわけではない。しかし、地球の限界内で格差是正を成し遂げ、守るべき文化や自然を尊重し続けるためには、現代の働き方や経済システムに思い切った「新陳代謝」を促す必要があるのだ。

【参照サイト】Planetary Habitability, Global Convergence and Structural Transformation, 2026-2100|World Inequality Lab
【参照サイト】Lucas Chancel, Cornelia Mohren, Moritz Odersky, Thomas Piketty, Anmol Somanchi (2026) Prosperity Within Limits? Planetary Habitability, Global Convergence and Structural Transformation, 2026-2100, World Inequality Lab
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