満開だった桜が散りゆく寂しさを感じたかと思えば、暦の上ではすでに夏。「初夏」という文字に違和感を覚えるほどの汗ばむ陽気が続いている。
私たちが生きる世界は、年々加速する気候変動によって季節の境目が曖昧になりつつある。近年では、春秋を除いた「二季」や、あまりの猛暑に「夏・猛暑・秋……」と数えたくなるような「五季」という言葉まで耳にするようになった。
もし、日本の四季がこのまま失われてしまったら。
当たり前のように桜の下で集い、旬を味わい、季節に合わせて装いを変える。そんな文化や感性までもが、削ぎ落とされてしまうのだろうか。

無印良品・東京有明店で店長を務める湯崎知己(ゆざきともみ)さんも、そんな四季の喪失に危惧を抱いた一人だった。そこから始まったのが、年に4回、季節をまるごと味わうマルシェイベント「四季祭」である。
2026年4月18日に無印良品 東京有明店にて開催された「春の四季祭」の会場には、北海道のアスパラや小田原の柑橘、森を育てるネパールのコーヒーなど多様な地域や風土を背景に持つ出店者が顔を揃えた。そんな春の色彩で溢れた会場で、IDEAS FOR GOODは、湯崎さんや出店者とのトークイベントを実施。その後は、ドキュメンタリー映画「リペアカフェ」の上映会を行った。

photo by Umon Naiki(BIKAS COFFEE)
気候変動を日々実感しながらも四季を守ろうと取り組む人たちが語る「切実な声」とは──。当日の様子をレポートしながら、これから大事にしたい一人ひとりの「わがまま」について共に思いを巡らせたい。
生産地から届いた「気候変動のリアル」
まず話を聞いたのは、日々自然と向き合う生産者の声だ。会場に集まった出店者たちは、自分たちの土壌や作物に現れている危機感を語った。ネパール産のコーヒーを専門に扱う「BIKAS COFFEE」の代表・菅勇輝さんは、コーヒーの2050年問題について語った。このまま気候変動が続いていくと、「2050年には、今飲んでいるコーヒーの約半分が飲めなくなる」と言われており、菅さんたちが定期的に訪れているネパールの村では、実際に6年前の半分以下にまで収穫量が減少しているという。
また、宮崎県延岡市から参加した「延岡メンマ」の山口江里子さんは、「放置竹林」の課題を訴えた。竹が伐採されずに放置され続けることで、森に光が入らなくなり、CO2を吸収していた木々の生育が阻害されたり、放置された竹林が山を蝕み地滑りの原因にもなったりする。そこで、延岡メンマは、竹林を整備してメンマとして食べる活動を行っている。もともと南に多かった竹藪は、気候変動の影響で生育地域が広がり、全国的な課題になっているという。
さらに、北海道・オホーツクから来た「さいこうファーム」の吉田幸枝さんは、「この5年間、思い通りになった年は一度もなかった」と、農業の現実を明かした。昨年の夏も雨が降らない日が続いたことで、ブロッコリーやトウモロコシの生長障害が起こり、1か月以上にわたって大量廃棄を余儀なくされた。ビジネスとして農業を営む難しさを実感しながらも、変わりゆく気候に合わせた品種や栽培方法を模索し、畑に向き合い続けているという。
日本で一番「温暖でない」と言われるオホーツクにまでじわじわと広がる気候変動の影響。コーヒー、竹、野菜──それぞれの現場は離れているが、人間の手では決してコントロールできない自然のなかで、戸惑い、試行錯誤しながら人々は生産に携わっていた。
サステナビリティの原動力は、個人的な「わがまま」でいい
こうした産地での危機は、私たちの生活と密接に関わり合っている。無印良品・東京有明店長を務める湯崎さんは、自身が四季祭を立ち上げた動機をこう語る。
「もともと僕は服が好きで、特にアウターが好きなんです。でも最近、秋のアウターを着る機会がなくなってきていて。それがとても寂しいし、嫌だなと思うんです。あと、最近は酷暑の散歩が辛く、犬が本当に可哀想。好きな服を着て、愛犬との心地よい散歩をこの先も楽しみたい。ただそれだけなんです」

photo by Umon Naiki(BIKAS COFFEE)
私たちがサステナビリティを語るとき、つい「地球のために」という大きな主語を選びがちだ。しかし、あまりに“正しすぎる目的”は、時に私たちの足をすくませる。湯崎さんの原動力は、個人的な「わがまま」のように聞こえるかもしれないが、「大好きな服を来年も着たい」「愛犬と心地よく歩きたい」──そんな等身大の願いこそが、活動を継続させる真のエンジンになるのだろう。
湯崎さんの「等身大」のあり方はまた、店舗運営にも通じていた。その象徴が、パーツを組み合わせてカスタムできる収納棚・収納ラック「ユニットシェルフ」を顧客に店舗に持ってきてもらい再販する活動だ。当初は、回収したものを店舗で完璧に組み立て直して販売しようとしたものの、手間と時間がかかりすぎて継続が困難に。そこで湯崎さんが出した答えは、あえて「完璧を目指さない」ことだった。
「オペレーションに手をかけすぎると、店側の負荷が大きくなって続きません。だから、僕らはクリーニングして置くだけ。組み立てはお客さんに自分でやってもらう。そうしたら、売り上げが格段に上がり、在庫が入ってもすぐに売れるようになりました。この『片肘張らない、これぐらいでいい』というシンプルさが、環境活動において一番大事なポイントだと思っています」

photo by Umon Naiki(BIKAS COFFEE)
企業が100%を抱え込み、完璧なサービスとして提供しようとすれば、コストもハードルも上がる。しかし、80点でも50点でもバトンを渡し、使い手が参加できる「余白」を残してみる。そんなふうに潔く割り切ることで、湯崎さんは活動を「特別なこと」から「日常のサイクル」へと変えていた。
「直して使う」を取り戻していく
「大切なものを守りたい」「できることからやる」──そんな湯崎さんの想いや姿勢は、四季祭に出店していた「京セラ」のあり方にも通じていた。BIKAS COFFEEの植樹プロジェクトに参加している同社は、その理由を「美味しいコーヒーが地球から消えてしまったら、コーヒーを美味しく飲むためのこだわりのマグボトルを売る意味もなくなってしまうから」と話した。
高尚な慈善活動としてではなく、自分たちのビジネスや愛するものを守り抜くための「本音の願い」。それらは、持続可能に組織や社会を動かす原動力になっていく。では、私たち消費者は四季が失われゆく危機にどう立ち向かえばいいのだろうか。その具体的な一歩になりうるものに、今あるモノを長く使い、製造や廃棄にかかるCO2を削減する「リペア(修理)」があるかもしれない。
トークセッション後、会場では、創造的なアイデアで気候変動に立ち向かう共創プロジェクト「Climate Creative」が、IDEAS FOR GOODが制作したドキュメンタリー映画『リペアカフェ』上映会を開催した。オランダを中心に世界で広がるリペアカフェを舞台に巻き起こる人々の物語。約30分間の上映後は、少人数のグループで感想を共有し合った。そこで飛び交っていたのが、かつての日本に根付いていた「直して使う」文化を、現代の感覚でアップデートするアイデア。特に、モノへの見方を変えてみるという声が聞こえてきた。

・少々古くなった服でも、その「ボロさ」を格好良さと捉え、いつまでも着続けたい
・できるだけ、家族や誰かの想いが乗った「ストーリーあるもの」を選ぶこと。それらを大切に修理しながら使いたい
・流行に合わせて買い替えるよりも、自分自身の歴史が刻まれたオリジナリティこそが格好良い
「日本も江戸時代までは、着物を解いて反物に戻すような『循環する社会』だった。であれば、リペアの文化の素地はきっとある。この価値観が広まれば、捨てられるはずのモノは『宝物』に変容していくのではないだろうか」
そんなふうに希望を見出す人も少なくなかった。実際に、無印良品(良品計画)のスタッフの間では「リペア部」という有志の集まりが立ち上がり、約100人の部員がダーニングや金継ぎ、ミシンを持ち寄った活動などをしているそう。たとえ、まだ一部だとしても、モノを直すカルチャーが根付いていたこの国では、こうした一歩が波紋のように広がり、文化となっていく可能性を秘めている。
「余白」を楽しめる使い手になれるか
リペアの話は、作り手(企業)と使い手(消費者)の新しい関係性にも及んだ。会場で使用されていた北欧・フィンランドのアルテック社のスツールの「生涯保証(※1)」に触れた湯崎さんは、一生付き合っていくものづくりを企業が学ぶ必要性について話した。だが、同時に使い手にも「物へのスタンス」が問われていると続けた。
湯崎さんは、かつて勤務していたフランス・パリの無印良品の店頭で見かけた光景を振り返る。
「パリでは、引き出しが一段足りない収納用品を『自分でなんとかするからいいよ』と言って買っていかれるお客様が結構いたんです。日本では、同じような商品があれば基本的に不良品として廃棄されてしまいますが、パリの人は、引き出しのない場所に自分なりの楽しみ方を見出し、『余白』を楽しんでいた。日本でも、完璧や正解を求めすぎず、あるものを工夫して楽しめるようになれば、もっと豊かになれるのではないでしょうか」
完璧を求めすぎない。たとえ直せなくても、想像力を働かせ、知恵を絞り楽しむ。そんな「寛容さ」が社会に広がれば、モノの寿命も人の寿命も伸びていくのかもしれない。リペアというアクションは、気候変動の解決だけではなく、モノへの愛着を育み、人とモノ、人と人をつなぎながら、きっと社会に豊かさの輪を広げていくだろう。
あなたは、どの色彩を守りたいか
湯崎さんが始めた「四季祭」は、回を重ねるごとに、生産者と消費者が直接対話し、課題を共有するコミュニティへと変容してきた。そこにあるのは、年々深刻化する気候変動への悲壮感というよりも、ただ「美味しい」を味わう人々の笑顔だった。それは、自分たちの好きなものや心地よい時間を守るための「前向きな抵抗」とも言えるかもしれない。
100点満点の環境保護活動家にならなくていい。ただ、「大好きなアウターを来年も着たい」「美味しいコーヒーを50年後も飲みたい」「おばあちゃんからもらった服を着続けたい」。そんな、個人的で切実な「わがまま」に気づき、大切にしていくこと。小さな主語を大事にすることこそが、大きな意味を持つのだろう。
散りゆく桜の花びらに儚さを感じながら歩き続ける未来は、私たち自身の手できっと守ることができる。
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【参照サイト】無印良品 ReMUJI
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【参照サイト】延岡メンマ
【参照サイト】さいこうファーム
【参照サイト】京セラ






