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竹害(放置竹林問題)とは・意味

放置竹林

Image via Shutterstock

竹害(放置竹林問題)とは?

竹の需要の減少によって、適切に管理されず放置されたままになっている竹林の増加と、それにより発生する影響や問題のこと。

林野庁によると、2022年3月末の時点で全国の竹林面積は約17.5万ヘクタール(※1)。2012年時点の約16万ヘクタール(※2)から比べても増加している。そのうち3分の2程度を放置竹林が占めるとも言われており、全国的に拡大の傾向にあることがうかがえる。

竹害が発生する原因

竹は西日本を中心に日本各地に分布し、古くから建材や日用品などの素材として広く利用されてきた。また、戦後はタケノコ栽培を目的として、孟宗竹(もうそうちく)が多く植えられた。こうした竹林は人の手によって管理・維持されてきたが、輸入品の安価なタケノコが出回るようになったことや、プラスチック製品の普及などの影響で竹の需要が減少していった。さらにタケノコの収穫や竹の間伐など管理を担う人々の高齢化や後継者不足も重なり、放置されたままの竹林が各地で増えていった。

また、竹は1日で数十センチ程度(時には1メートル程度)伸びることや、伐採後も地下茎からまた再生するといった、成長の早さや繁殖力の強さが特徴で、手入れを怠ることで、あっという間にその面積を広げていくことも放置竹林が増える原因となっている。

放置竹林による影響や竹害について

それでは放置竹林が増えることによって実際にどのような問題が起こるのだろうか?ここでは竹害と呼ばれるその被害についていくつか例を紹介する。

生態系への影響

竹は繁殖力が非常に強く、広範囲に広がる地下茎によってスギやヒノキなどを枯死させてしまう。また上に高く伸びることで広葉樹の森の下層部に光が届かない状況を作り、多くの植物の成長を阻害し、その影響は森に住む動物や微生物にまで及び生物多様性を脅かしている。

農業や生活への影響

里山エリアの竹林は農地や住宅地にも侵入し、農作物の育成を妨げたり、倒れた竹が住宅に被害を与えたりする。また、人の手が入らない放置竹林はイノシシや鹿などの住処になり近隣の田畑を荒らすなどの獣害も起きている。

災害リスクの発生

広葉樹などの樹木は基本的に根を深く張り、保水力も高いため、豪雨の際など地盤が緩むのを防いでくれる。一方、竹は地表から30センチ程度の浅い場所に横に広がって根を張り、また竹自身の中に水分を貯めるため山の保水力が弱まる。そのため土壌が緩んだ際は竹林ごと斜面を滑り落ち、山の広い範囲で土砂災害を引き起こす可能性が高まる。

改善に向けた取り組み

こうした放置竹林による竹害を増やさないために、下記のような整備や利活用に向けた取り組みが行われている。

竹の伐採と管理

放置竹林は一度ですべて伐採し根絶するのは難しく、継続した間伐と管理が必要だ。労力やコストもかかるが、地方自治体やNPOなどのサポートや、機械購入などに対する補助金制度などもあるので、うまく活用するのもよいだろう。

京都府山城広域振興局が作成した「だれでもはじめられる放置竹林整備マニュアル」は整備のポイントなどがわかりやすくまとめられており、正しい整備の理解を深めるのに有効だ。

最近では地域住民が管理に参加し、タケノコの採取を楽しんだりできる竹林オーナー制度なども広がりつつある。

また、伐採のほかに土の中で速いスピードで広がる地下茎の成長を止めるために、地中にコンクリートやトタン板などを埋設する方法なども用いられている。

竹の有効活用

一方で竹はサステナブルな素材としても注目されており、伐採した竹の活用についても従来の方法以外にさまざまな試みが行われている。

建材

日建ハウジングシステムでは、竹の強度や弾力性を生かした集成材を利用した構造システムを開発し、竹造建築の普及を目指している。これまで竹は建築基準法の指定建築材料ではなかったが、2023年に国内で初めて竹集成材構造による性能評価書を取得し、実施に向けたプロジェクトを進めている。

土壌改良剤

炭化させた竹炭や、粉砕した竹チップや竹パウダーなどは土の吸水性や保水性を高めることや、ミネラルや乳酸菌などを含むことから土壌改良剤としても用いられている。

食品

竹を使った食品の代表的なものとしてメンマがあるが、これまでは90%以上が中国や台湾からの輸入製品が占めていた。最近では、サステナブルな視点からも伐採した竹を活用し“純国産”をうたったメンマを販売する企業や団体なども増えてきている。ただ、中国などでメンマに用いられているのは細く柔らかい麻竹(マダケ)という種類だが、日本の竹林の多くは孟宗竹のため適切な下処理や調理など加工の工夫が必要となる。

またLIFULLが手がける地球の新たな食材を見つけるプロジェクト「地球料理-Earth Cuisine-」ではパウダー状にした放置竹林の竹を用いたスイーツを開発し、販売している。

紙、繊維製品

竹はその繊維質を利用して、紙や繊維製品などに変えることができる。竹紙に関しては中越パルプ工業が国内で唯一、日本の竹を原料にした紙を作っている。同社の工場がある鹿児島は日本最大の竹林面積を誇るが、周辺住民たちがその処分に苦慮し資源として活用できないか、と申し出があったことからこの紙は生まれた。現在はノートや折り紙、紙袋などさまざまな製品に利用されている。

また、大分大学理工学部の衣本太郎准教授の研究によって「セルロースナノファイバー」という新素材が開発された。現在はJAXAとともに宇宙用の部品などの共同研究も進められている。「竹林のある地域で製造できる技術の開発」を目指しており、実用化が進めば、放置竹林問題にも大きく貢献するだろう。

バイオマス燃料

竹はカリウムや塩素を多く含有していることから燃焼時にダイオキシンを発生するという問題や、コスト面からもバイオマス燃料には向かない素材と言われていた。しかし2017年に日立製作所が竹からカリウムと塩素を取り除く技術を開発し、これにより、竹を木質バイオマスとして活用できる可能性が大きく広がった。同年に山口県山陽小野田市に世界初となる竹を燃料とするバイオマス発電所が誕生した。今後もさらなる活用が期待される。

まとめ

放置竹林はそのままにしておくと、さまざまな害が発生し、私たちの生活にも影響を及ぼすことが懸念されている。しかし、適切な管理や効果的な利用を行うことで環境保全や地域活性化にもつなげることができる。まずは放置竹林の現状を知ってもらう情報提供や、魅力ある活用方法の発信などが必要だろう。

また、それぞれの取り組みの関係者同士で成果や情報を共有できるプラットフォームを構築し、横のつながりを広げることで、新たな技術革新や市場開拓など竹の利用拡大に結びつけることも可能だ。竹林の価値を再度見直し、持続可能な里山や森林を次の世代にも残していく必要がある。

※1 林野庁:都道府県別森林資源現況総括表
※2 林野庁:竹の利活用推進に向けて

【参照サイト】林野庁 | 竹の利活用推進に向けて
【参照サイト】NHK仙台 知っトク東北|放置竹林問題(竹害)って、何が問題なの?
【参照サイト】地方自治ふくおか68号 | 九州における放置竹林問題と求められる対応方策
【参照サイト】農林水産省 | 広がる竹の可能性!新たな竹の利用法に迫る
【参照サイト】日建ハウジングシステム | 竹を活用した建材開発『竹でイエを建てちゃおう!プロジェクト』
https://www.nikken-hs.co.jp/ja/idea/post/bamboo-project
【参照サイト】株式会社LIFULL(ライフル) | LIFULL Table Presents 地球料理 -Earth Cuisine- 第二弾「BAMBOO SWEETS –竹害から生まれた和菓子–」 地球のために「竹」を食べる。食の新たな可能性を探る試み
【参照サイト】竹取キッチン | メンマが作る新たな循環|プロジェクトの背景|
【参照サイト】姶良市 | たけんこオーナー制度




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