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児童労働

児童労働

児童労働とは?(What is Child labour?)

世界のさまざまな国で問題となり、私たちにとっても他人事ではない児童労働。これは、15歳(国際基準による就業最低年齢)未満での労働と、18歳未満の危険で有害な労働を指します。

ILO(国際労働機関)はウェブサイトの中で、児童労働をこのように説明しています。

一般的に、就労の最低年齢を超えた子どもが学業に影響を及ぼさないレベルで労働することは前向きに捉えられている。しかし「児童労働」という言葉を使うときは、たいてい子どもの可能性や尊厳を奪っているものを指す。具体的には、以下のような作業だ。

  • 精神的、身体的、社会的または道徳的に危険であり、子どもにとって有害
  • 学校に通う機会を奪う、途中退学を強いる。または、学校への出席と、過度な長時間労働の両立を要求する

「単なる労働」と「児童労働」の切り分けについては、子どもの年齢や労働の種類、拘束時間、および各国の法律やそれぞれのセクターによっても異なります。国によって違法とみなされる児童労働の種類としては、たとえば農場や工場労働、採炭・採掘、売春、少年兵などが挙げられます。

この記事では、ILOの国際的な「児童労働」の定義にもとづき、そのデータや要因、問題点、解決に向けた取り組みを解説していきます。

数字で見る児童労働(Facts & Figures)

世界で行われる児童労働の現状に関する数字と、事実をまとめています。

  • 世界には、5歳から17歳までの児童労働者が1億6,000人いる(UNICEF 2021
  • 全体のうち、ほぼ半数(7,900万人)が、健康・安全・道徳的に「危険」とみなされる仕事についている(Alliance 8.7. 2022
  • 開発途上国においては、5歳から17歳までの子どもの 4人に1 人以上が、健康と発達に有害であると考えられる労働に従事している(UNICEF 2022
  • 2013年から2021年までで、児童労働に従事している5歳から17歳までの子どもの割合が高い国(40%を超えている)はエチオピア、ブルキナファソ(UNICEF 2022
  • 武力紛争の影響を受けた国々での危険な仕事の発生率は、世界平均よりも50%高い(UNICEF 2021
  • 「現代奴隷(自らの意志に反して拘束され、奴隷状態にある人々)」は世界で約4,957万人おり、そのうち4人に1人は子ども(ILO 2022

地域別で児童労働を見ると、一番多いのがサハラ以南アフリカ(サハラ砂漠よりも南の地域)。次いで中央・南アジア、東・東南アジア、ラテンアメリカ・カリブ諸国となっています。

児童労働の地域分布(ILO/UNICEF 2021年 のデータより ハーチ作成) (1)

日本ではあまり報道されることがない児童労働ですが、実は日本でも隠れた問題となっています。児童労働の撤廃と予防に取り組むNGO「ACE(エース)」が2019年12月に発表した調査によると、2015年の年少者(子ども)に関する労働基準関係法令違反は297件。2017年12月には、アルバイトの15歳少女が、 工場の太陽光パネル清掃中に転落死したこともありました。日本の労働基準法では、「5メートル以上の高所での作業」は危険有害労働に該当します。

ACEは調査レポートの中で、日本における調査の難しさについて以下のようにまとめました。

調査実施中に感じた課題は、主に2つである。第1に、予想はしていたものの、児童労働の規模を示すデータは存在せず、さまざまな公的統計データを組み合わせても日本の児童労働者数を示すことは難しかった。

第2に、児童労働の実態を直接現場で把握することの難しさであった。

出典:日本にも存在する児童労働 〜その形態と事例〜 

児童労働が存在する原因(Causes)

児童労働が横行している原因は、単に「貧困」という一言で表せないほど複雑です。家庭の貧困、そして子どもが労働しなければならない背景には、さまざまな要因が含まれています。

  1. 親が収入を十分に得られないことによる家庭全体の貧困
  2. (アクセスや学校インフラの未整備などの理由で)地域全体の教育機会の欠如
  3. 十分な教育を受けられなかったことによる貧困の連鎖
  4. 児童労働をさせる側、そしてさせられる側の人権意識の欠如
  5. 子どもたちが早いうちから働くことを前提とする環境
  6. 「安い労働力」に支えられる経済構造(過度な労働コスト削減を通じた利益の創出)

ILOはウェブサイトで、さまざまな国で子どもの教育よりも労働が優先されてしまう要因の一つとして、「学校教育の利用可能性と質」を挙げています。

学校が存在する場合でも、提供される教育の質が、子どもやその親にとって、仕事に代わるものであると認識されていないことがよくあります。実際、提供される教育の質が低く、家庭や地域のニーズや状況に合わないこともよくあります。したがって、彼らが学校に通うことに何の意味もないと考えても驚くことではありません。

児童労働の撤廃に取り組むACEの副代表、白木朋子さんは、ガーナ現地での支援をした実感としてこのように語ります。

「ガーナでは、カカオ生産の底辺で働く人たちの多くは、カカオ生産を行っていないガーナ北部や周辺国のより貧しい地域からの移民労働者のため、カカオ生産の知識や経験がなく見よう見まねで生産に携わる農家もいます。技術がなく、生産効率も悪いため、生産量も所得も上がらない。文化的に、貧しい家庭の子どもは働くことが当たり前だと思われていることも影響しています(2022年11月の取材より)」

児童労働の様子

Image via ACE

また、児童労働が生まれる構造の中には、労働コストを過度に抑えることで利益を生み出そうとする経済のしくみも関係しています。農産物を作る生産者が人間らしい生活ができるだけの安定した収入が得られない、そのための適正な価格が支払われていない現状があります。

そういった構造が、生産者の貧困につながり、子どもの労働搾取につながっています。児童労働は、私たちにとっても、遠い国で起きていることでも、他人事でもありません。

日本と人混み

Image via nuu_jeed / Shutterstock.com

児童労働はなぜ問題なのか(Impacts)

児童労働は、なぜ問題なのでしょうか。主な理由としては下記が挙げられます。

  1. 子どもへの身体的・精神的・社会的な有害な影響
  2. 子どもの教育機会の損失
  3. 地域や、国全体としての損失
  4. 不健全な経済循環

児童労働をする子どものうち70%は農林水産業の分野で働いており、短期的または慢性的な健康への悪影響を引き起こす可能性があることは、2022年の国連の記事のなかでも指摘されています。具体的には、身体に有害な化学物質を配合した農薬に常に晒されたり、危険な道具を使用したり、重いものを運んだりすることが挙げられます。

望まない労働による過労死や、業種によってはセックスワークによる性病感染などの労働災害も、有害な影響といえます。

また、子どもの教育機会の損失も深刻です。これらは生涯にわたり健康で自立した人生を生きることを阻害します。国民の教育機会が失われることは、将来的に国力を失うことにもつながります。

途上国で衣服や食べ物を作るのはコストが安いからと、企業として見て見ぬふりをすると、児童労働はなくなりません。強制的な労働というのに関連して、過去にはバングラデシュで多くの労働者が亡くなってしまったラナ・プラザ崩落事故(ダッカ近郊ビル崩落事故)事件も起きています。

この事件では、死者1,127人、行方不明者約500人、負傷者2,500人以上が出ており、そのほとんどは私たちのよく知るファッションブランドの縫製工場で働いていた人々でした。安全が確保されない劣悪な環境で、事故当日も強制的に働かされていたことから、事故後には世界中から該当ブランドへの批判が殺到。児童労働を見過ごすことは、企業としての価値を下げることにもつながりかねません。

児童労働をなくすにはどうしたらいいのか(Solution)

では、児童労働の撤廃に向けてどのような動きが必要なのでしょうか。まず押さえておきたいのは、国際的な法規制です。

児童労働を禁止または規制する、世界の法律・条約

はじめに、国連が1989年に定めた「子どもの権利条約」。飢えや貧困などの困難な状況に置かれている児童(ここでは18歳未満と定義)の人権の尊重と、保護の促進を目指したものです。UNICEFはウェブサイトの中で、この条約の原則は以下の4つだと説明しています。

1. 生命、生存及び発達に対する権利(命を守られ成長できること)

すべての子どもの命が守られ、もって生まれた能力を十分に伸ばして成長できるよう、医療、教育、生活への支援などを受けることが保障されます。

2. 子どもの最善の利益(子どもにとって最もよいこと)

子どもに関することが決められ、行われる時は、「その子どもにとって最もよいことは何か」を第一に考えます。

3. 子どもの意見の尊重(意見を表明し参加できること)

子どもは自分に関係のある事柄について自由に意見を表すことができ、おとなはその意見を子どもの発達に応じて十分に考慮します。

4. 差別の禁止(差別のないこと)

すべての子どもは、子ども自身や親の人種や国籍、性、意見、障がい、経済状況などどんな理由でも差別されず、条約の定めるすべての権利が保障されます。

次に、ILOの「就業の最低年齢に関する条約 (第138号条約、1973年)」。働いてよい年齢は、原則15歳からとするもの。ただし軽労働については、一定の条件の下に13歳以上15歳未満としており、危険有害業務は18歳未満が携わることを禁止しています。そして途上国についても例外が認められており、就業最低年齢は当面14歳、軽労働は12歳以上14歳未満としています。2022年6月時点で、世界174か国が批准していますが、オーストラリアやニュージーランド、アメリカなど未批准国もあります。

最後に、同じくILOの「最悪の形態の児童労働条約(第182号、1999年)」。これは、18歳未満の子どもによる最悪の形態の児童労働を即座に禁止、及び撤廃を確保するための法律です。最悪の形態とは、人身売買や武力紛争、売春、児童ポルノの製造、薬物取引、その他子どもの健康・安全・道徳を害するおそれのある労働などを意味します。

以上三つの条約に関しては、日本はすでに20年以上前に批准(同意)しています。しかしこれらの法律をもってしても、児童労働はいまだに世界で横行しており、具体的なアクションも必要です。

撤廃に向けた具体的なアクション

世界の子どもを児童労働から守るNGOのACEがカカオ生産国で実施する「スマイル・ガーナ・プロジェクト」では、以下のプロセスが実施されています。

  1. 住民に対する意識啓発(村の住民全体を対象とした集会やポスター等を通じた情報発信など)
  2. 児童労働モニタリングシステム構築(見回り・家庭訪問・ミーティングなど)
  3. 児童労働者の特定・保護(なかには人身取引のケースも)
  4. 貧困家庭へのカウンセリングと就学支援(無償の学用品支給や、状況改善のためにできることを一緒に考える)
  5. 学校環境の改善と就学の徹底(学校運営委員会やPTA、教師との話し合い、学校インフラ整備)
  6. 子どもへの啓発・リーダーシップ育成(話し合った内容を学校長や村長にも届ける)
  7. 農民の収入向上トレーニング(カカオ農家の能力を上げ、収入アップに)
  8. 住民の相互扶助のしくみ構築(農家同士が助け合うことで子どもの労働力に頼らなくていい構造を作る)
  9. 行政との連携(持続的に村と行政が協力できる体制づくり)

必要なのは、経済支援や教育支援だけでなく、児童労働を一つの構造と捉え、子どもの保護や、貧困から抜け出すためのサポート、地域全体で協力していくシステムづくりなどの包括的な支援です。

子供たちの学校 アフリカ

Image via Dietmar Temps / Shutterstock.com

大切なのは、モニタリングか?

近年、さまざまな企業で「透明性」の大切さが叫ばれています。衣服や食品がどのようなプロセスで作られたのか、買う側も知れるようにすることで、生産国での不正を抑制できるというものです。IDEAS FOR GOODでも過去に、生産者を幸せにするバレンタインチョコなどの認証商品をご紹介しました。

それに伴い、現地の人が条例を守ってものづくりをしているかどうかを報告するモニタリングへの注目も高まっています。透明性が大事な一方、ACEの白木さんからはこんな指摘もありました。

現地で支援をするNGOでいうモニタリングとは、地域の親と子どもたちが教育を受けて、お互いに児童労働や無理な労働をしないように見ておくシステムです。何かあったら自分たちで対処できるようにするものであり、それを第三者に報告することは第一義的な目的ではありません。

一方、企業にとっては、サプライチェーンの中に不正があったら困るので、認証制度や監査にお金をかけていることがあります。。現地の課題が実際に解決されることよりも、モニタリングすることそのものに時間や費用をかけすぎている側面があると感じます。

モニタリングは、自社を守るための手段としてだけでなく、課題解決のための方法として捉えられる必要があると思います。

202211月の取材より)

児童労働への対策に取り組む国際団体(Organization)

児童労働への対策に関する国際機関や団体としては下記が挙げられます。

日本の企業で児童労働撤廃に取り組むところはある?

企業だと、たとえばチョコレート菓子の『ブラックサンダー』を製造する有楽製菓(ゆうらくせいか)は、児童労働に配慮したカカオ原料を自社商品に使っています。チョコレートを食べることで、生産者もハッピーになる仕組みを作っているのです。

同社のスマイルカカオプロジェクトでは、2022年9月にブラックサンダーに使用するカカオ原料を、児童労働撤廃につながる「スマイルカカオ」に切り替えました。また、2025年までに同社製品で使用するカカオ原料をすべて同プロジェクトに適応したカカオ原料へ切り替えることを目指しています。

2022年11月時点では、切替率が88%。2022年から急激に原料を切り替えることができた要因としては、小さく取り組むのではなく、自社の看板商品である『ブラックサンダー』から変えようと決めたことです。有楽製菓への取材では、このような言葉が出ました。

商品の味を変えずに、価格も変えずに、いかに原料をより良いものに切り換えるかというのが課題でした。お菓子メーカーにとって、味は最も大切ですから。結果的には成功しており、多くのメディアより取材の依頼を受けています。

とはいえ、児童労働撤廃には一社だけで取り組んでいてもインパクトが少ないです。今回のスマイルカカオプロジェクトを行うことで、より多くのチョコレートメーカーに同じように問題意識を持ってもらって、この動きを発展させていければ幸いです。

(2022年11月 有楽製菓代表取締役社長 河合辰信氏への取材より

『ブラックサンダー』をもらって喜ぶガーナの子どもたち

『ブラックサンダー』をもらって喜ぶガーナの子どもたち

児童労働問題を解決するアイデアたち(Ideas for Good)

児童労働を食い止めるために、私たちができることは何でしょうか?

IDEAS FOR GOODでは、ユニークなアイデアで児童労働の問題解決に取り組む世界の企業やプロジェクトを紹介しています。

【参照サイト】ILO – Child Labour
【参照サイト】Understanding Child Labour Statistics
【参照サイト】世界の子どもを児童労働から守るNGO
ACE

【参照サイト】有楽製菓 – スマイルカカオ

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