ついに、人間が自身の命を守るためだけに動物の命を犠牲にしてきた「動物実験」という呪縛から解放される日が来るかもしれない。
今、世界では推定すると毎年1億匹程度の動物が新薬や化粧品などの開発目的で実験に利用されているという。
動物実験については常に世界中でその倫理性が問われ続けてきた。既に大手製薬メーカーや化粧品メーカーの中には動物実験の撲滅に向けた取り組みを進めている企業もあるものの、動物実験はあくまで製品の人間に対する安全性テストが目的であり、倫理面への配慮だけを理由に廃止することもできない難しい問題だった。
しかし、この問題の解決につながる画期的なテクノロジーの研究が進んでいる。米カリフォルニア州にあるローレンス・リバモア国立研究所(以下、LLNL)の研究者らが開発しているのは、”iCHIP(Isolation Chip)”と呼ばれる新たなマイクロチップだ。
iCHIPは、中枢神経(脳)、末梢神経、血液脳関門、そして心臓という生命活動に欠かせない4つの機能が模写されたチップで、電子ミニチュア版の人体として化学物質に対する様々な反応を実験できるようになっている。研究者らは、まさに”Human on a chip”(チップ上の人間)を創り出そうとしているのだ。
人体環境の模写精度が向上すればするほど、我々は動物実験に頼らずとも、人間が実際にその薬や製品を利用する前に、それらが人体にどのような影響や反応をもたらすかを知ることができるようになる。
実際のところ、動物実験の結果は我々が期待しているほど信頼性があるわけではない。米国の食品医薬品局(FDA)のレポートによれば、動物実験では問題が見られなかった新薬でも、90%以上が臨床試験(人間を対象とする実験)のフェーズでは問題が発見されるという。
もしこの”Human on a chip”テクノロジーが実用化されれば、動物実験をめぐる倫理的な問題だけではなく、新薬の開発スピードも大きく向上し、人類の健康や医療分野に大きな利益をもたらす可能性もある。今後の研究成果に大きく期待したいところだ。
【参照サイト】Human-on-a-chip’ could replace animal testing
(※画像:ローレンス・リバモア国立研究所より引用)