全世界で大ヒットしたマジック・ザ・ギャザリングというゲームをご存知だろうか。
1993年に発売された世界初のトレーディング・カードゲーム(TCG)であり「世界でもっとも遊ばれたトレーディング・カードゲーム」としてギネス世界記録に認定されている。
各々が20点のライフをもち、60枚以上のカードデッキからカードをひき互いに攻撃・防御するゲームで、ライフがゼロになるかデッキのカードがなくなると負けだ。
このゲームはなぜ大ヒットをおさめたのだろうか。その秘密は交差的アイデアの実現にある。
従来のゲームは、トランプ・チェスなどのように「あらかじめカードや駒の能力・機能が定義されており」、その有限の決められた手札を用いて対戦する。勝敗を分けるのはプレイヤーの能力であり、カードや駒の能力は変わることはなかった。
マジック・ザ・ギャザリングを開発したリチャード・ガーフィールドは昔からパズルやゲームに関心をもち、13歳にははじめて自作ゲームをデザインした。
大学や研究機関で働きながらもゲームそのものやゲームづくりへの情熱を持ち続けたリチャードはある日、伝統的ゲームの前提である「あらかじめ能力が決められた有限のカードを使う」のではなく、「常に新しい能力をもつカードがあらわれ、無限の新しいカードを使用できる」カードゲームを思いついた。それがこのマジック・ザ・ギャザリングだ。
「連想バリア」「思い込みの壁」を超えたこのアイデアは瞬く間に全世界でヒットした(「連想バリア」についての記事はこちらを参照)。
トランプ・チェス・将棋・百人一首、いずれの昔からあるゲームも研鑽を積んだプレイヤーほど強く、一定のレベルまで新しい事を習得するおもしろさがあるが、一定のレベルに達したらその面白さがなくなる。
一方、マジック・ザ・ギャザリングは自分にも相手にもそれまでにない新しいカードが出てくることで、その戦略は常にアップデートが必要とされ、そこに対応するおもしろさが尽きる事はない。また愛好者の収集意欲に火をつけたり、カードの交換というオプションによってもその楽しみ方の幅を広げた。
このアイデアは広く世界へ伝播した。
日本では遊戯王などがこのTCGの分野で大ヒットし、マンガやテレビアニメと連動する事で今なお根強い人気をもっている。これは模倣と日本のメディア環境にカスタマイズさせた方向的アイデアの勝利と言えるだろう(方向的アイデアと交差的アイデアについてはこちらを参照)。
ポケモンのヒットはこのTCGの「常に新しい持ち手が増える」や「収集」といった要素に、さらに「成長・進化」という従来のロールプレイングの要素をかけあわせた交差的アイデアといってもいいだろう。
そして過日、世界をトリコにした「ポケモンGO」は、このポケモンに「位置情報」という要素を交差させたアイデアだ。八百万の神、日常のあらゆる所に神を見いだす日本ならではの思想文化が育んだのかもしれない。
筆者はあまりゲームをしないが、こういったアイデアの連鎖は興味深いし、今後VR技術もあいまって現実世界とさらに融合したゲームのアイデアが出てくると思うと、とてもワクワクする。