全米でも有数の犯罪多発都市として知られるジョージア州アトランタ市。同地域の犯罪率の高さは、貧困と失業が主な原因と言われている。とりわけ、貧困家庭に生まれた子供たちには薬物へのアクセスやギャングへの加入など犯罪の入口に引き込まれる機会が日常生活のあらゆる場面に存在しており、負のスパイラルが生まれているのが現状だ。
このような問題を抱えているアトランタ市はこのたび、子供たちの非行を防ぎ、地域の明るい未来を実現するために世界初となるユニークな取り組みを実施した。「アトランタ市の恵まれない子供たちにライフスキルプログラムを提供する」という趣旨のもとで、プロジェクト「Station Soccer -Five Points program」を発足。メトロポリタンアトランタ高速輸送機関(MARTA)の地下鉄Five Points駅に「Station Soccer」という名のサッカースタジアムを建設したのだ。
このFive Points駅はアトランタ市の中心に位置しており、地下鉄路線のすべてから簡単にアクセスできる主要駅だ。その駅の一角にある未利用だったスペースを占有して本格的なサッカー場を建設、東西南北あらゆる方面から訪れる多様な環境下の子供たちが集まり、共にサッカーを楽しめる場所を用意した。
プロジェクトの要となる非営利団体のSoccer in the Streetsは、サッカーを通じてスポーツ教育やメンタリングセッション、就労支援プログラムを実施しており、自信を持った若者を育成するという理念のもとに恵まれない青少年たちをサポートしている団体だ。
指導者たちはサッカーを通じて社会的変化を起こすことを目的としており、子供たちが非行や薬物に走る代わりに、友達とサッカーをしながらライフスキルを学ぶ機会を提供している。
社会を生きていく上で重要なスキルとなる協調性やコミュニケーション、忍耐や尊重、事前準備、仲間とゴール(目標)を目指す喜びなどをサッカーにより学び、子供たちがより積極的に人生を送れるよう指導。「ドラッグを使用しない」「喫煙しない」などの「しない」という言葉をかける代わりに、「教育を受ける」「ロールモデルとメンターを見つける」というような「DO=する」という言葉を伝えるというのが団体の教育方針だ。
アトランタ市は、今後このプロジェクトを機に青少年向け無料プログラムをさらに拡大していく方針だ。「Station Soccer」にて成人リーグの競技大会を開催し、そこで集められた資金を青年無料プログラムへ循環させるという。この仕組みにより、継続的にプログラムの資金調達を可能にし、新たなプログラムの実施が円滑に進行するようシステムを構築する。
貧困や犯罪といった地域が抱える深刻な問題も、視点を変えて改善を試みることで、行政機関や地域の団体が市民を楽しませる方法で問題解決への糸口を見出すことができる。一筋縄ではいかない問題を様々な角度から観察し、ユニークな手段でアプローチする同市の方法から学ぶべき点は多い。
【参照サイト】Soccer in the Streets
【参照サイト】Station Soccer
(※画像:Station Soccerより引用)