世界では、毎年延べ30億人以上もの人々が飛行機を利用して移動していることをご存じだろうか。かつてないほどにビジネスがグローバル化し、LCCの就航などで海外旅行にも行きやすくなった今、出張であれ旅行であれ、飛行機は私たちの生活に欠かせない移動インフラとなっている。
普段私たちが仕事を離れて旅に出るとき、仕事の関係者らに不在を知らせる自動返信メールを送るのが慣例となっている。この味気ないやりとりをもっと素敵でワクワクするものにできないかと考え、ユニークなサービスを開発した企業がある。それが、オーストラリアの大手航空会社のカンタス航空だ。
今回カンタス航空がタッグを組んだのは、世界4億人以上のアクティブユーザーを抱え、ユーザーの60%以上が毎日ログインをするという大人気の画像投稿アプリ「Instagram(インスタグラム)」だ。
インスタグラムといえば2015年には約6億米ドルもの広告収入を得ていると発表されて話題になったが、いまやフェイスブックなどと並び最も強力なマーケティングツールの一つとしても知られている。
インスタグラムを上手く活用して消費者をエンゲージメントするキャンペーンの好事例として記憶に新しいのは、アメリカの大手食品会社、Land O’Lakes社が実施した「Delete to Feed」というキャンペーンだ。
ソーシャルメディア上に投稿される写真の中で特に多いのは食べ物の写真だが、同社はその投稿写真を一枚削除するごとに11回分の食事が貧困家庭に寄付されるというキャンペーンを展開し、合計4万食以上の寄付を集めて大成功を収めた。
このようなインスタグラムを利用したユニークなマーケティングが次々と生まれるなか、このたび、オーストラリアのカンタス航空が始めたキャンペーンが「Out of Office」だ。
今年9月に開始されたばかりのこのサービスは、インスタグラムとメールアドレスを連携させることで、私たちが出張や休暇に出かけるときに関係者らに送る味気ない自動返信メールを、インスタグラムを使って旅行中のストーリーを伝えるリアルタイムの画像日記に変えてしまおうというものだ。
このサービスを利用するのはとても簡単で、自身のインスタグラムアカウントとメールアドレスを登録し、不在日程とメッセージ、そして出先や旅先のロケーションを選択するだけでよい。
人々はインスタグラムに画像を投稿する際、共有したい画像だけに #qantasoutofoffice というハッシュタグを付ける。あとはOut of officeがそのタグがついた画像だけを自動でピックアップし、メールに掲載する仕組みとなっている。サービスは無料で利用でき、企業単位だけでなく個人アカウントでも作成可能だ。
サービスを開発した意図について、カンタス航空の広報担当者のOlivia Wirth氏は「航空会社で働く我々が世界中を旅する際に、このサービスを利用して身内や同僚、お客様へ不在メールを返信することで、旅行先から様々なインスピレーションを与えることができ、それを受け取った人々が『旅行に行きたい』または『旅行のアイデアを思いつく』といったような現象が起きることを願っている」とコメントする。
このサービスの利用者が増え、メールの受信者に画像が広まれば、より多くのユーザーが「旅をしよう!(飛行機を使おう)」という気持ちになり、まわりまわってカンタス航空のマーケティングやセールスへも繋がっていく。
不在メールを送る相手は仕事上の関係者が主となると思うが、そうした相手とはお互いのプライベートを知らない間柄であることが多い。しかし、このようなサービスを利用して自身のイメージや個性を画像とともに伝えることができれば、相手に親近感を抱かせるきっかけやセルフアピールの場にもなる。
普段私たちが何気なくやりとりしている自動返信メールを、旅の魅力を伝える新たなメディアとして活用するカンタス航空のアイデアは、他の会社も参考になるとてもユニークなアイデアだと言える。今後、どのようなストーリーが共有されるのか楽しみだ。
【参照サイト】QANTAS TO INSPIRE TRAVEL WITH ‘OUT OF OFFICE’ MESSAGE
【参照サイト】Out of Office