世界中で広がり続けるシェアリングエコノミー。個人間の信用をベースにインターネットを介してモノやサービスを貸し借りしあうこの新たな仕組みは、大量消費・大量生産型の経済が生んでいた無駄をなくし、世界全体の持続可能な成長を実現する新たな経済パラダイムとして注目を浴びている。
しかし、その一方でシェアリングエコノミーが抱える課題も徐々に浮き彫りになりつつある。それは、この新たな経済モデルがもたらす恩恵が、全ての人々に行き渡らないという問題だ。シェアリングエコノミーの代名詞とも言える民泊プラットフォーム世界最大手のAirbnbも、この問題に悩まされている。
Airbnb上で多発した、部屋を貸し出すホストが部屋を借りたいゲストの人種を理由に宿泊予約を断るという人種差別問題はその最たる例の一つだ(Airbnbはその後、人種差別を禁止するポリシーを公表している)。
また、サンフランシスコやベルリンなど一部の都市では、商業的な理由で部屋を貸し出す民泊ホストの増加により市内の物件賃料が高騰し、結果として地元の人々が部屋を借りられなくなるという事態が発生してたびたび批判が巻き起こった。
さらには、こうしたシェアリングエコノミー型サービスの主な利用者は経済的に余裕がありITサービスにも精通している中間層以上の人々で、そもそもインターネットへのアクセスを持たない人々や地方部で暮らす貧困層などは必然的に参加することができず、シェアリングエコノミーの恩恵を共有するどころかさらなる格差を助長しかねないという懸念もある。
シェアリングエコノミーがこうした様々な課題に直面している事態を受けて、世界の産業界に対してサステナビリティを推進している国際ネットワークのBSRは今年の9月、”An Inclusive Sharing Economy“と称するレポートを公表した。
BSRがレポートで提唱している通り、今世界に求められているのは人種や所得、住んでいる場所に関係なく全ての人々が恩恵を受けられる、「インクルーシブなシェアリングエコノミー」なのだ。
そのビジョンを実現するべく、Airbnbはインドにて新たなアクションを起こそうとしている。
同社は11月28日、インドの地方部で暮らす200万人以上の自営女性の支援団体、SEWA(Self Employed Women’s Association of India)と覚書を締結し、Airbnbのプラットフォームを通じてインド地方部の女性に新たな経済機会へのアクセスを提供し、女性の自立を支援することを公表した。
今後、AirbnbはSEWAの協力のもとでSEWAの会員らに対して責任ある民泊ホストとしてゲストをもてなすためのトレーニング機会を提供し、まだほとんど観光客が訪れていないインドの地方部に対してゲストを引き込み、ローカルコミュニティがシェアリングエコノミーの恩恵を受けられるように支援する。
今回の覚書締結を受けて、Airbnbのアジアパシフィック政策パートナーシップ担当ディレクターのThao Nguyen氏は「この提携は女性起業家の経済支援と地方部におけるデジタルインクルージョンの促進を実現するというAirbnbのコミットメントにおける重要なステップとなる」と語る。
中国に次ぎ世界第二位となる12億人の人口を抱え、毎年7%以上のスピードで急速に経済成長を遂げているインド。世界中から脚光を浴びるその陰で、インド国内ではGDPの拡大とともに格差も拡大する状態に陥っており、特に経済発展の恩恵を受けている都市部と未だに最低限のインフラすら整わない地方部との格差はますます深刻化している。
インドが今後も持続可能な経済成長を遂げるためには、この経済格差の解消は必須のテーマでもある。シェアリングエコノミーという新たな経済パラダイムによってこの格差を解消し、地方部の人々に新たな経済機会を提供しようとするAirbnbの試みは、インドだけではなく世界全体が必要とする成長モデルだ。
テクノロジーの進化や経済のグローバル化などあらゆる条件が揃うことで初めて実現したシェアリングエコノミーという素晴らしい概念が、その理念とは裏腹に単なる格差助長装置と化してしまうのか、それとも等しく人々に恩恵をもたらす富の共有装置とできるのか、その未来はAirbnbをはじめとするプラットフォーマーらの手にかかっている。