ロンドン市長がテクノロジーの祭典「SXSW」で自身へのヘイト投稿を読み上げた理由

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アメリカ・テキサス州で毎年3月に開催されるサウス・バイ・サウス・ウエスト(SXSW)。映画、音楽、ゲーム、テクノロジー等、各分野のディスカッションが行われる大規模イベントだ。

2018年のSXSWで最も大きな評判を呼んだのは、ロンドン市長サディク・カーン氏(当時)の基調講演だった。カーン氏はこの講演のために、予め収録した映像を用意していた。それは自身のTwitterアカウントに寄せられたメッセージを読み上げる、という内容のものだ。

「カーンを殺すことにより、この世からテロリストがひとり消える」
「イスラム教徒は射殺するか絞首刑にしろ」
「ロンドンを再び白人社会に戻そう」

それらは、公共の放送では決して口にできないヘイト投稿である。憎悪に満ちた文章を、時折溜め息をつきながら読み上げるカーン氏。その行動には、果たしてどのような意図があるのだろうか?

「私はこれを根拠に、自分が被害者だと主張する気はない。しかしこのような投稿を、マイノリティに属する少年少女が目にしたら彼らはどのように感じるだろうか」

カーン氏は映像の中で、淡々と己の意図を説明する。そして、SXSWに参加している大手IT企業らにヘイト投稿問題の解決を呼びかけたのだ。

カーン氏はパキスタン系移民2世のイスラム教徒である。父はロンドンでバス運転手として勤務し、母は裁縫業者だった。両親共働きの労働者家庭で、実家は低所得者向けの公共住宅だ。

兄弟の中でもとくに優秀だったサディクは、それでも苦労を重ねてようやく大学を卒業し、弁護士になった。そんな経歴を持つ彼が労働党候補としてロンドン市長選挙に臨んだのは2016年。対立する保守党候補はヨーロッパ有数の大富豪一家ゴールドスミス家の次男ザカリアスである。

このときのゴールドスミス陣営は、カーン氏に対して露骨なネガティブキャンペーン戦略を実行した。「ISと関連のあるイスラム指導者と面会している」「9.11のテロ実行犯の弁護士だった」など、カーン氏がテロリストであるかのような「告発」をタブロイド紙に売りまくった。

ところが、この戦略は裏目に出る。同性婚容認派のカーン氏は原理主義的イスラム指導者とはむしろ疎遠であること、そして上記の「ISと関連のあるイスラム指導者」が実は保守党支持者だったことがすぐに判明したからだ。このときの選挙で、保守党は低所得者向けの政策をほとんど提示できなかった。それが労働党に勝利をもたらす結果となる。

市長就任後のカーン氏は、公約通りワーキングクラス、あるいはハードコアの市民を重視した政策を実行していく。そのひとつが、ホームレスを支援するクラウドファンディング「Beam」である。これは先日、IDEAS FOR GOODでも取り上げた。

カーン氏がテロ組織とまったく縁のない人物であることは明らかだ。去年発生した低所得者向け公営高層住宅の大規模火災では、聖公会の教会に駆けつけて司祭と被災者のケアについて対話した。同時に、マスコミに対しては焼け出された人に対する緊急援助を発表している。

しかしそれでもなお、カーン氏のTwitterアカウントへの攻撃は止まない。これらはサディク・カーンという人物に対する個人攻撃である。だがカーン氏自身は、それを公共の問題として取り上げた。インターネットの世界は、プラットフォームの運営者が何もしなければマイノリティが迫害されてしまう環境に変化していく。それを改善するには、すでに権力を持っている者が一声上げなければならない。「ITテクノロジーの進化」による利益は、すべての人の上に降り注ぐべきだ。

【参照サイト】Mayor of London Sadiq Khan Convergence Keynote at SXSW 2018 [Video]

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