いま、CO2の削減が気候変動への対策の一つとして求められている。新たなCO2排出を削減していくことも大切だが、すでに空気中には200年間に渡って人類が排出してきたCO2がたまっている。この状態をどのように対処していくかが、現代に生きる私たちの課題だ。
この空気中にあるCO2の除去を目的として、ハーバード大学のキース教授ら研究チームは、1年間で100万トンのCO2を除去し、燃料に変える産業規模のパイロット工場を建設した。
空気中のCO2を除去する「直接除去」は1940年代から行われてきたが、2011年に行われた概算では1トン当たりのCO2除去に1,000米ドルものコストがかかり、実際の適用には高価すぎると考えられてきた。研究チームは、Carbon Engineering社の技術により、1トン当たりを94米ドルから232米ドルで除去できると推定。これは、CO2を直接空気中から除去するプロセスにおける、世界初の商業用コストとなる。
Carbon Engineering社は、キース教授が2009年に共同設立した会社だ。CO2を空気中から直接除去し、飛行機や客船など電化が難しい乗り物用にカーボンニュートラルな燃料を生産し、二酸化炭素を排出しないエネルギーを高エネルギー燃料に変換することを目標としている。
新製品や新工程を開発するのではなく、既存の技術に基づいて商業用スケールで設計を行っていることがCarbon Engineering社の特徴だ。研究チームは、設備の各部品の商業用のサプライヤーと共に実験や技術変更を行い、原価見積を行った。
パイロット工場のシステムは以下の通りだ。水酸化物の水溶液を擁する改造済の産業冷却塔がCO2を吸収して、炭酸塩に変換する。変換された炭酸塩は、元々は浄水場において鉱物の抽出のために作成された装置で、ペレットになる。そしてペレットは、金を焼くために本来設計された窯で熱せられ、純粋なCO2ガスに変換されてから、最終的に合成燃料となるのだ。
キース教授はこう語る。「パリ協定が締結され、皆がCO2除去について話をしているが、分析のほとんどは二次文献であくまで政策の展望でしなかい。われわれの研究は、技術と価格分析に基づいたCO2直接除去の初めてのコスト見積もりだ。」
次のステップは、低価格で大規模、そして低炭素燃料で再生可能な電力市場に対応する工場の建設だという。既存の設備を使って、空気中からCO2を除去して低コストで燃料に変える工場。新旧をうまく組み合わせた、CO2削減に向けた実践的な研究開発のこれからが期待される。
【参照サイト】Team plans industrial-scale carbon removal plant
(※画像:Harvard Universityより引用)