「都市の緑化でメンタルヘルス向上」米ペンシルバニア大学が発表

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木陰の有り難さがいつも以上に感じられる酷暑の夏。緑はわたしたちにさまざまな恩恵をもたらしてくれるが、最近またひとつ、緑の効用が明らかになった。

米ペンシルベニア大学の研究者らが、街中の空き地や荒廃地を緑化すると、「うつ」が減少するなど住民のメンタルヘルスが大幅に改善されるという新たな調査結果を発表した。緑が精神状態の改善につながるという研究はこれまでにもあったが、実際に比較対照群を置いた実験が行なわれたのは今回の調査がはじめてとなる。

調査はペンシルベニア州フィラデルフィアにて18ヶ月間にわたって行なわれた。無作為に抽出された110区画を対象に、(1)ごみを取り除き、芝生を植え、木製のフェンスを置いてその後の維持管理も行なう、(2)ごみと雑草を取り除いてきれいにしておく、(3)何もしない、のいずれかの内容を実施するというものだ。

参加した442世帯のうち、約44%にあたる194世帯は年間収入が2万5,000米ドル(約280万円)以下の低所得世帯、さらに約4分の1世帯は年間収入が1万米ドル(約112万円)以下の貧困層が占めており、彼らへの影響も注目されていた。

調査結果によると、荒廃地を緑化したり掃除したりした区画の半径約402メートル圏内に住む住民の約41%は気分の落ち込みが減り、無気力状態は約50%削減された。貧困生活をする住民たちへの影響は特に著しく、68.7%の人の気分の落ち込みが改善されたという。

また緑の多い地域に住む住民は、緑が少ない地域の住民に比べ、精神的に不安定であるという自己申告が62.8%減少。さらに、犯罪や暴力などが減ることもわかった。なお、ごみと雑草を取り除いただけの区画、何もしなかった区画の周辺に住む住民については、大きな変化は見られなかった。

精神疾患は、米国において深刻な影響をもたらしている。米国ではほぼ5人に1人が精神的な病に悩まされ、1,600万人の人が何らかの精神的な病の経験を持つ。うつは2番目に多い疾患だ。医療への資金投入を増やすことはもちろんだが、問題解決のための街での方策を拡大していくことも欠かせない。そこで注目されているのが空き地・荒廃地の緑化、なのだ。

「緑化の重要性は、単に街の景観をよくするということにとどまらない。特に緑の少ない貧困地域においては、住民たちの健康に良い影響を与えている」とペンシルバニア大学緊急医療センターの助教授ユーギニア・サウス氏は述べる。

緑化にかかった費用は1区画につき1,600米ドル(約17万8,000円)で、年間の維持費は180米ドル(約2万110円)。もし住民の身体的、精神的な健康状態を根本から改善できるとしたら、安い費用といえるのではないだろうか。

「空き地や荒廃地の緑化は、環境改善に関心のある都市で拡大可能、再現可能な方法だと思う」とサウス氏。米国の郊外の15%は空き地や荒廃地が占めているから、活用しない手はない。

翻って日本の状況をみてみると、2014年度の精神疾患患者数は392万4,000人と過去最高の人数を記録し、深刻な社会問題のひとつとなっている(※1)。

日本でも街の中を見渡してみると、緑化できそうな場所はまだまだ多い。緑化はヒートアイランド現象の緩和や生物多様性など環境保全にもつながる。心の健康に、環境保全に、まちの彩りにつながる緑化。あらためて日本でも推進していくべき方策ではないだろうか。

※1 厚生労働省「病院報告」より

【参照サイト】Effect of Greening Vacant Land on Mental Health of Community-Dwelling Adults
【参照サイト】‘Greening’ vacant lots improves mental health in Philly communities