ホテルをサステナビリティ体験の場に。欧州で広がる「BIO HOTEL」が日本に上陸して気付くこと

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多くの人が愛する旅。思い出に残る「現地での体験」のひとつが、宿泊だ。自分の泊まるホテルが社会、そして地球環境にどのような影響を与えているか、考えたことはあるだろうか?

近年、社会課題の解決に向けたアジェンダ「SDGs(持続可能な開発目標)」やパリ協定を達成するための動きが全世界で進行している。増え続ける人々の活動に伴う環境負荷を考え、さまざまな企業や団体が脱炭素や脱プラスチックなどのアクションを起こし始めた。

そんななか、わたしたちの毎日のライフスタイルを変えていくことで、日本にサステナブルな文化を根付かせようと活動する団体がある。世界で唯一ホテルへの厳格なBIO基準を設ける「Die BIO HOTEL(ビオホテル協会)」の公認を受けたBIO HOTELS JAPAN(一般社団法人日本ビオホテル協会)だ。

旅と観光業を象徴して、社会全体で循環していくエコシステムをつくりたいというBIO HOTELS JAPAN。代表の中石和良氏に、BIO HOTELの理念や、日本で社会課題の解決をするための取り組みについて聞いてみた。

話者プロフィール:中石和良(なかいしかずひこ)


BIO HOTELS JAPAN(一般社団法人日本ビオホテル協会)代表理事。株式会社ビオロジックフィロソフィ代表取締役。松下電器産業(現パナソニック)、富士通・富士電機のジョイントベンチャー企業、千円ヘアカットQBハウス運営企業を経て、2013年にオーストリアに本部を置く「ビオホテル協会」との公式提携を受けBIO HOTELS JAPAN設立。ホテルを中核としたBIO HOTELブランドをプラットフォームに、日本にサステナビリティ文化を根付かせる事業を展開している。

BIO HOTELとは?


BIO HOTELは、ドイツ・オーストリアを発祥とするホテルグループだ。“BIO(ビオ)”はオーガニックを意味する。環境や宿泊ゲストの健康などに意識を向ける志の高いホテル・生産団体が集まり、有機認証団体のサポートを受けて2001年に発足した。

BIO HOTELの認証を受けるホテルは、最低3つの基準を満たしていなければならない。ひとつは、食事や飲み物はできるだけ地元から調達し、完全オーガニックであること。次に、コスメ(シャンプー・石けん・スキンケア等)などもすべてオーガニックであること。タオル、ベットリネン類、さらには、施設の建材や内装材も可能な限り自然素材を使用していることが望ましい。

最後に、再生可能エネルギー100%使用や、CO2排出量を継続的に削減していく義務、水などの資 源の効率的使用、ホテルの紙類は全て再生紙またはFSC認証紙のみなど、徹底的に環境への負荷低減を行っていることだ。サステナブルツーリズムディベロップメントインデックス(STDI)の基準に基づき、各ホテルを厳格に評価する。

さらに、従業員が気持ちよく働ける環境であるかどうか、通勤の距離や方法はどうか、動物を倫理的に扱っているかどうか、なども評価の対象となるようだ。

現在、ビオホテル協会の認証を受けた宿泊施設はドイツ・オーストリアを中心にヨーロッパで90軒強。日本ではBIO HOTELS JAPAN基準に基づいて、長野の「カミツレの宿 八寿恵荘」、福島の「おとぎの宿 米屋」、北海道の「Auberge erba stella(オーベルジュ エルバステラ)」の3軒がBIO HOTELS JAPAN認証を取得している。

日本で初めてBIO認証を受けた『カミツレの宿 八寿恵荘』

そんなビオホテル協会と公式提携をして活動するBIO HOTELS JAPANのミッションは、ライフスタイルのイノベーションだ。「豊かな暮らし」と「社会課題解決」を両立する、持続可能なライフスタイルに誰もがアクセスできる機会と選択肢をデザインし、持続可能な社会を実現していくこと。

ホテルは、いわば持続可能なライフスタイル体験の場だと中石氏は語った。

日本を課題「解決」先進国に

日本で「BIO HOTEL」のコンセプトを普及したいのは山々だが、ヨーロッパのBIO HOTELSと同じ基準を適用する必要はない、と中石氏は語る。はじめはコンセプトそのまま上陸させたいと考えたが、日本ではオーガニックやサステナブルコンセプトの製品・サービスがあまりに少なすぎるため、ヨーロッパの基準をクリアすることが不可能で、そのようなコンセプトの宿泊施設への需要も限られていると判断したからだ。

ゴミからリサイクルしたスポーツ製品を売っても、「それって衛生的に大丈夫なんですか?」と言われてしまう。それなら、サステナブルなブランドへの需要を作るところからはじめなくてはならない、と同氏は考えた。デザインも企画も日本向けにローカライズすることに。

実際に、BIO HOTELS JAPANではロゴのデザインを一新している。

オーストリアのBIO HOTELロゴ

BIO HOTELS JAPANとしての活動は、ホテルの認証だけに限らず多岐にわたる。たとえば、自然派住宅メーカーの認証・プロデュース。住む人の健康と環境をよくする「アトリエDEF」だ。

街から少し離れた山の麓に佇む「循環の家」

さらに、健康と環境に最大限に配慮したクリーニングとリネンサプライ事業や、品質・デザイン・機能性を追求したユニバーサルデザインプロダクトの開発など、さまざまな地域の企業と連携し、サステナブルな製品・サービスづくりをサポートしている。

2018年6月22日から7月22日には、銀座ロフトで期間限定ショップ「BIO HOTEL MARKET」もオープンした。

旅や宿泊のほか、日本に暮らすわたしたちがもっと身近に感じる「住宅」「洗濯」「コスメ」「衣服」などをはじめ、「施設向けの再生可能エネルギー自給サービス」「再生プラスチックによる製 品化」などの、あらゆる生活に関わる製品・サービスを通して、健康的で持続可能なライフスタイ ルを啓発している。

「サステナブル」がもっと当たり前になるといい

「日本でオーガニックな製品を作っても、通常商品との差別化が難しいし、今後も需要は拡大しないだろう。」中石氏は、BIO HOTELS JAPANとしてさまざまな企業と関わり始めた当時(今から約7年前)、そう言って諦めている企業が多いことに気が付いた。一部の健康管理や環境に対する意識が高い人々にしか届かない製品、というイメージもあったのかもしれない。

そこで、BIO HOTELS JAPANが企業とのダブルネームでサステイナブル製品のプロデュースに関わる際は、必ずデザインと機能性を既存の商品と同じかそれ以上にすることを心がけている。

「デザインやサービスの見せ方は、かなり意識しています」中石氏は、すべての第一印象を決めるデザインの大切さを強調する。

そして、価格を既存の商品と同じに抑える努力も行っている。環境のために少し高くても買う、デザインや機能性が劣っていても買う、ということは素晴らしいが、続かないことも多いのだ。だからこそ、コストが高くなってしまうオーガニック食品より、ファッションやコスメのプロデュースを重点的に行い、そちらから消費者の意識を変えようとしている。

BIO HOTELS JAPANの理想は、あらゆるジャンルのサステナブルな製品・サービスが日本中いつでもどこでも当たり前に手に入り、そしてサステナビリティが文化になっていくこと。 そのために、しっかり収益が出るビジネスモデルを確立し、次の世代に残していくことだ。そうなれば、特に「エコ」や「ビオ」なんて意識することなく、誰でも普段のライフスタイルのなかでサステナブルな選択ができる。

BIO HOTELブランドは、持続可能な社会の実現を加速するプラットフォームだ。サステナビリティに関することは、ライフスタイルからビジネスまで全方位で対応可能だという。

「旅の過程にこそ価値がある。」アップル創業者のスティーブ・ジョブズは、かつてこんなことを言っていた。目的地に行くことだけが旅の価値を決めるのではなく、宿泊や食事、持ち物などを含めて「どのように旅をするか」が大事なのだ。多くの人が愛する旅をより楽しく、ソーシャルグッドにするBIO HOTELS JAPANの活躍からこれからも目が離せない。

【イベント出演レポート】

2018年8月にIDEAS FOR GOODが開催したイベント『サステナブル観光立国ドイツの最新事例に学ぶ、新しい旅のカタチとは?』に中石氏が登壇しています。イベントの様子をまとめた記事も、よければご覧ください!

#2 イベントレポ『サステナブル観光立国ドイツの最新事例に学ぶ、新しい旅のカタチとは?』

【参照サイト】BIO HOTELS JAPAN
【参照サイト】Sustainable Tourism Development Index (STDI) by ehc
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