ゴキブリが数億匹集まったら、なにができるだろうか。一匹でも嫌なのに、数億匹がもぞもぞ動いている様子なんて想像すらしたくないかもしれない。しかし中国の済南市(さいなんし)でリサイクル工場を営むLi Yanrong氏は、この卒倒しそうな光景に向き合いながら、3億匹を超えるゴキブリに食品廃棄物の処理を任せている。つまり食品廃棄物をひたすら食べてもらうわけだ。
このリサイクル工場では、ゴキブリに毎日15トンの食品廃棄物が与えられる。これは、済南市章丘区にあるレストランや食堂から出る食品廃棄物の3分の1以上を占めるという。従来であれば埋立地に捨てられ環境問題を引き起こしかねない廃棄物が、このようなかたちで処理されるのは周辺地域にとって朗報だ。
このゴキブリは死んだあとも別のかたちで活用される。プロテインを豊富に含むゴキブリの死骸は動物の飼料にうってつけなのだ。死骸は粉砕され、ある意味自然の循環に沿うかのように動物に食べられる。Li氏の観察によると、ゴキブリ入りの飼料を与えられた鶏のほうが、そうでない鶏よりも健康的にたくましく育ったそうだ。
ゴキブリを使って廃棄物を処理するという発想はどこから生まれたのだろうか。Li氏は、娘が学校の課題でゴキブリについて調べていたことをきっかけに、この虫への好奇心を刺激される。調べていくなかでゴキブリの栄養価の高さなどを知り、ゴキブリを飼育するというアイデアが浮かんだ。
そこでLi氏は、製薬会社に原料を提供するためにゴキブリを育てている飼育場を訪れる。直に体験してみたいと思い訪ねたLi氏だが、そこでゴキブリを育てるコストの高さを知り気落ちする。これらの飼育場ではゴキブリに穀物を与えており、ゴキブリ1トンを飼育するのに10,000元(約163,000円)かかるという。その割に小売価格は1キロあたりわずか数十元になることがあり、これで事業を営むのは難しいと思われた。
そんな折、Li氏は章丘区の環境衛生センターで働くAn Feng氏から食品廃棄物処理の難しさについて話を聞く。埋め立てられた廃棄物は地下水を汚染し、住民の健康にも関わってくる問題だという。ならばゴキブリに廃棄物を食べてもらえばいいのでは、とアイデアを結び付けたのがこのリサイクル工場のはじまりだった。
ゴキブリの繁殖力は凄まじく、2014年には400キロしかいなかったゴキブリが翌年には4トンにまで膨れ上がったそうだ。その生命力の高さはさすがだが、ひたすら食べ続けて死んでいく様子は儚い一生だとも思う。気味悪がられるゴキブリも、死んでしまえばただの餌。大胆な発想で展開するLi氏のリサイクル工場には、ふとそんな空虚な気持ちにもさせられる。
【参照サイト】300 Million Cockroaches Eat Restaurant Waste on This Chinese Farm
【参照サイト】Entrepreneur raises millions of bugs to tackle food waste problem